M5 iPad Pro レビュー:「脱いだら凄いんです」
見た目は変わらず中身は別次元、メモリ50%増・ストレージ2倍高速の地味な革命
Appleが満を持して投入したM5チップ搭載iPad Proを、発売に先駆けて試す機会を得た。11インチと13インチの2モデルが用意され、今回レビューするのは13インチモデル。ストレージは2TB、メモリは16GB、そしてセルラー対応という、現時点で購入できる最強スペックのiPad Proだ。もはやモンスターマシーン。
正直に言おう。僕はiPadをほぼ毎日使っているが、「使い倒している」とは程遠いライトユーザーだ。現在使っている11インチM4 iPad Proのチップ性能の1割も使っておらず、M4チップも張り合いのない人生にガッカリしているに違いない。
それを踏まえた上で、今回は2025年10月時点で購入し得る最も高性能なiPad Proを先行レビューさせてもらった。限られた時間内ではあるが、「有り余るほどのパフォーマンスを使い倒す」というミッションと向き合うべく、普段あまり試したことがないアプリケーションなどで試してみた。
見た目は変わらず、中身は飛躍的に進化
M5 iPad Proの外観は、M4モデルから大きく変わっていない。しかし中身は確実に、そして飛躍的に進化している。チップ、メモリ、ストレージという、「目に見えないパフォーマンスに最も影響する部分」がガツンと向上している。
M5チップは、次世代のAppleシリコンとしてAIワークロードを劇的に高速化する。各GPUコアにNeural Acceleratorを備えた新しいアーキテクチャを採用しており、M4搭載iPad Proと比較してAI性能は最大3.5倍高速、M1搭載iPad Proと比較すると最大5.6倍高速を実現している。
13インチモデルはわずか5.1mmという驚くほど薄いデザインが特徴だ。Ultra Retina XDRディスプレイ(タンデムOLED)を搭載し、極限の輝度と高精度のコントラストを提供する。新たにAppleが設計したN1ワイヤレスネットワークチップとC1Xモデムを搭載し、Wi-Fi 7や高速なモバイルデータ通信に対応する点も見逃せない。
M5チップは何が進化したのか
過去モデルとの比較
M5チップは、M4に比べてパフォーマンスが30%向上し、GPU性能は60%高速化している。256GBおよび512GBモデルの標準メモリは12GBに増加(M4比50%増)し、メモリ帯域幅は153GB/sとなり約30%増加。ストレージの読み書き速度も2倍まで高速化されている。
M1モデルと比較すると性能差はさらに顕著だ。3Dレンダリング性能はレイトレーシング使用時で最大6.7倍高速、ビデオトランスコードは最大6倍高速、AI画像生成は最大4倍高速を記録している。ディスプレイ技術もLiquid Retina XDR(ミニLED)からUltra Retina XDR(タンデムOLED)へ移行し、SDR輝度は最大1,000ニトに向上(M1/M2の600ニトから大幅増)。本体の厚さも6.4mmから5.1mmへと薄型化されている。

実は、iPhone Airよりも薄いんです
Wi-Fi 7対応、第3世代のレイトレーシングエンジン搭載、外部ディスプレイへの120Hz出力とAdaptive Sync対応、そして高速充電対応など、細かな改善点も多数ある。
マルチタスクとクリエイティブワークフロー
取材を通じて印象的だったのは、非常に要求の高いアプリ(Rush、Procreate、Drawなど)を複数同時に起動したまま、クローズせずに作業を続けることが可能だという点だ。M5チップと増強されたメモリにより、マルチタスクにおけるパフォーマンスが大幅に向上している。
ZBrushでの3Dモデリングでは、560万ポリゴンから最大1億レベルのポリゴンまで扱うことが可能で、3Dモデル編集を非常にスムーズに行える。プロフェッショナルなクリエイターにとって、これは革命的な進化だろう。
M5 iPad Proの実力を検証
書き出し速度を検証
冒頭にも断ったとおり、iPad Proは日常的に使っているが高負荷な作業は行っていない。しかし辛うじてiPad Proでも試すことができる高負荷作業と言えば……動画編集だ。M5チップの性能をフルに活かすことができるDaVinci Resolveの出番である。
そこで今回、YouTubeチャンネル「ガジェタッチ」で僕が定期的に出演しているコーナー「OpenMic g.O.R.i Edition」の素材を使い、実際に検証してみた。比較用に使ったのは、11インチM4 iPad Proと12.9インチM1 iPad Pro(第5世代モデル)だ。
M4モデルでの操作は予想どおりサクサクで何1つ不自由がない。ただし11インチモデルのため、DaVinci Resolveの細かいUIを使う上では画面サイズが窮屈であるように感じた。
M1モデルは予想以上に操作そのものはサクサク。時間の都合上、検証用に用意した素材をスクロールするなどタイムラインの移動、素材の差し替え程度のものしかできていないが、動作は安定していた。「これならM1チップでも十分戦える」と思ったら大間違いだ。
書き出しでM5チップが真価を発揮する。今回は約10分間の素材をH.265で書き出し。ストレージの関係上、全てのデバイスはSanDisk SSD(4TB USB 3.2 Gen 2×2)にある素材を使い、書き出し先も同じSSDにした。
その結果は以下のとおり:
M1に比べて10分以上、M4と比べても2分以上書き出し時間が短縮化されている。圧倒的な違いだ。
念のためローカルでのパフォーマンスも計測した。M5モデル以外はストレージの関係で検証できなかったためM5モデルのみで試したが、結果的に6分8秒かかり、ポータブルSSD経由よりも遅くなってしまった。ここについては検証不足のため、今後改めて試してみたい。
そしてとりあえずAppleのCEOが答える「人生について」の答えについては是非、見てもらいたい。
Wi-Fi速度、SSD性能、充電速度を比較
M5 iPad Proには、iPhone Airと同じN1チップとC1Xチップを搭載している。Wi-Fi通信速度を比較してみたところ、安定してダウンロード速度が500Mbps以上、アップロードが350Mbps以上を記録していた。計測完了までの時間もM5 iPad Proが最も早かった。

左から順に:11インチM4、13インチM5、12.9インチM1
さらにSSDの性能が向上している。プレスリリースによると「新しいiPad Proはストレージの読み書き速度が最大2倍高速」と説明している。内蔵ストレージの書き込み・読み込み速度を検証できるアプリで計測したところ、M5 iPad ProがM4モデルを圧倒。計測速度も抜群に速かった。

左から順に:11インチM4、13インチM5、12.9インチM1
充電速度も計測してみた。M5 iPad Proは今回、初めて高速充電に対応。8時50分から最大100W出力のUSB-C充電器に接続し、電池残量20%からスタート。出力は50W前後(49〜54W)が確認されている。
約15分間で44%まで回復。約30分間で64%、約1時間で85%まで回復していた。普段からこまめに充電している人にとっては高速充電の必要性は理解できないかもしれないが、ハードに使う人ほど最初の現場で使い倒して電池が切れそう、次の現場でも自由に使えるように限られた時間で充電しておきたい、というニーズがあるはず。正真正銘の「プロ向けマシーン」である以上、高速充電の対応は歓迎されるのではないだろうか。
13インチiPad Proを使ってみた感想
iPad Proのフロントカメラが横向きにした状態の中央上部にあることの恩恵を、実際に体験できた。我が家では娘達が定期的にオンライン英会話を実施している。オンライン英会話をやるにあたって、現在手元にある12.9インチのiPad Proはカメラが端についているため目線がいつも合わない。
しかし今回M5 iPad Proで試したところ、普通に設置しても明らかに目線が合う。目線が合うから自然と会話も捗る……とはならないが、おそらく講師側もちゃんと目線がもらえている安心感があるだろうと想像する。ただし娘によると、従来のiPad Proに比べて画角が広くて戸惑ったとのこと。英会話アプリとしては画角を調整することができないため、周囲の写りこみを含めて配慮する必要がありそうだ。
大画面は非常に快適だが、持ち運ぶとなると非常に重い。本体は限りなく薄く、iPhone Airよりも遙かに薄い上に画面が大きいため、体験として非常に素晴らしい。僕の使い方としてはあまり自宅から持ち出す機会がないため、自宅から持ち出さないことを前提とすればもしかしたら13インチM5 iPad Pro、アリかも……と本気で考えてしまっている自分がいる。

13インチは結構大きい。右はM4モデル
どう考えても用途対性能比率としてはオーバースペックだが、M4モデルでこの筐体になってから初めて13インチモデルを触ったため、どことなく筐体に惹かれてしまっている自分がいる。めちゃくちゃいい……!
高速化したSSD、帯域が増したメモリ、(僕の普段使っているM4モデルに対して)倍増したメモリのアップグレードは、日常生活で体感できるのか、というと、僕の使い方では体感できない。強いて言うならば、メモリが8GBから16GBに増えたことで、いくらアプリを立ち上げて行ったり来たりしても読み込み直す頻度が少ない気がする。ただそれも無理矢理多くのアプリを立ち上げなければ体感できず、僕のようなライトな使い方では到底体感できない。
しかし大画面で改めて最高だと実感したのは、写真を見るときだ。僕は写真を撮るのが趣味なので、家族に食事前後に撮影した写真を披露することがある。特に海外出張の娘達も知らない世界を知ることができるため、積極的に写真や動画を披露して思い出話を語る。画面は大きければ大きいほうがいい。

ちなみに写真はiPhone 17 Proで撮影したもの
iPadOS 26のマルチタスク機能も、大画面のほうが何倍も使いやすい。11インチM4 iPad Proでも使っているが、マルチウィンドウ自体は「あってもなくてもいいな」程度だったが、13インチになると話が変わる。画面を分割して複数のアプリを同時に使う体験がグッと向上した気がする。
iPadですべてをこなす人に待望の1台
Appleは今年のM5チップに相当な自信がある。というのもプレスリリースではM1モデルなど数年前のモデルと比較しつつも、M4モデルとの性能向上を積極的にアピールしているからだ。M4モデルから買い換えてもハードコアにiPad Proを使いこなすクリエイターは恩恵を受けられるだろう。
もちろん僕のようにM1モデルを使っているユーザーからすれば劇的な性能向上が期待できる。メモリは8GBから最低でも12GBまで増え、チップ性能は飛躍的な性能向上を遂げている。屋外で作業する機会が多い人は、Nano-textureガラスがオプションとして選択できることも最新モデルを選ぶべき理由の1つになるだろう。
しかしネックは価格だ。今回レビューさせてもらった13インチモデルは218,800円から。最安モデルだとしても、M1モデルなどからの買い換える場合、Apple Pencil(第2世代)は使えずApple Pencil ProまたはApple Pencil(USB-C)に買い換える必要があり、追加の出費を予算内に組み込まなければならない。Magic Keyboardの場合も同様だ。

対応するApple Pencilは「Pro」または「USB-C」
このようなことを踏まえると、M5 iPad Proは「iPad Proをメインマシーンとして使うような人」向けの、言葉通り「プロユーザー向けマシーン」と言えるだろう。一昔前は「とりあえずProモデル買っておけばOK」という時代だったが、今はとにかくすべてのモノの価格が上がっているだけではなく、スペックが飛躍的に上がりすぎており「買ったけど使いこなせない」という域まで来ている。
M5 iPad Proはまさにそのようなデバイスだ。ロマンを追及したい人は思いのままにポチってもらいたいが、冷静に自分にとって必要性を問う人は、正直M5 iPad Proにこだわる必要はないだろう。iPad ProのProMotionディスプレイが悩むポイントであれば整備済みモデルを選ぶことで数世代前のモデルを安く購入できる。ディスプレイ性能よりもチップ性能をある程度重視したいのであれば、iPad Airも魅力的な選択肢になるだろう。
M5 iPad Proはガチ勢向け。ガチ勢でスペックを求める人は最新モデル、是非ともチェックしてもらいたい。
























