AirPods Pro 3 レビュー:着実な完成度向上
劇的進化はないが心拍センサーと世界最高ANCで磨き上げた、3年ぶりの堅実アップデート
AirPods Pro 3は「進化」したのか。初代AirPods Proは完全ワイヤレスイヤホン市場を加速させる起爆剤となり、AirPods Pro 2は音量調整機能、ケースのスピーカー搭載、そしてノイズキャンセリングや外音取り込みモードを改良した。そして3年ぶりのアップデートとなるAirPods Pro 3が誕生した。
正直に言えば、新モデルは「劇的な進化」とは言い難い。見た目も同じ、チップも同じ。しかし細部に宿る改良により、確実に前進している製品であることは間違いない。
まったく新しい内部設計で実現した「完璧なフィット感」
AirPods Pro 3とAirPods Pro 2は限りなく見た目が似ているが、じっくり見比べるとすべてが異なる。10万時間以上のユーザー調査と1万以上の耳のスキャンを活用して完全に内部アーキテクチャが再設計され、これまでで最も安定感がある究極のフィット感を実現している。
まずケースサイズが少し大きくなっているため、既存のケースは使い回すことができない。前面にあったLEDライトの穴がなくなり、背面にあったペアリング用のボタンがなくなった。イヤホンの形状も異なり、メッシュは従来より小さくなっており、ステム部分の角度が変わっている。
最大の改良点はイヤーチップの外側の形状をボディの中央に配置することで、左右それぞれのAirPodsをより小さくしながら安定性を向上させたことだ。新しいイヤーチップはXXSサイズを含む5サイズ展開となり、AirPods Pro 2の4サイズから1サイズ増えた。着脱も以前より簡単になっており、サイズ変更の敷居が下がったのは朗報だ。
ただしイヤーチップはAirPods Pro 2との互換性がなく、サードパーティ製のイヤーチップを使っている人は、メーカーのAirPods Pro 3対応製品を待つ必要がある。
世界最高のANCと驚異的な音質を実現する新技術
AirPods Pro 3は「あらゆるインイヤーワイヤレスヘッドフォンの中で世界最高のANC」を提供する。Appleはノイズキャンセリングが前モデルより最大2倍、初代AirPods Proと比較して最大4倍向上したと謳っている。
この圧倒的な性能向上を支えるのは、極めて雑音の少ない新しいマイクと先進的なコンピュテーショナルオーディオ、フォーム材が入った新しいイヤーチップの組み合わせだ。様々なシーンで検証してみると、電車内では劇的な違いこそ感じられなかったものの、地下鉄の騒音でも「スッ」と音が消える心地良さは健在だった。
より明確な違いを感じたのは、日常的な騒音に対してだった。自宅でのキーボードタイピング音や、テレビの実況音声など、中音域の騒音に対するキャンセリング効果が確実に向上している。羽田空港で航空機の爆音と勝負してみたが、こちらは「ほんの少しだけAirPods Pro 3のほうが騒音をシャットアウトしている」と感じる程度だった。
音質面でも新しいマルチポートの音響アーキテクチャと次世代のアダプティブイコライゼーションを採用し、低音域のレスポンスを変革してサウンドステージを広げている。実際に聴き比べると、特にポップスのボーカルがクリアになっており、「音が解像している」ような感覚すらある。
「何も変わらない」という不思議な体験
特に驚いたのは、外音取り込みモードの精度向上だ。改良されたイヤーチップと外音取り込みモードの組み合わせにより、「耳に入れたのに(周りの音の聞こえ方が)何も変わらない」という非常に不思議な感覚を味わった。初めてAirPods Proの外音取り込みモードを体験したときの衝撃を思い出すほどだ。
ただしAirPods Pro 2と直接比較すると、格段に向上しているかというと正直そこまでの違いは実感できなかった。「確かに良くなっているかも」程度の改善だが、これ以上どれほど改善するのかよく分からないレベルまで到達している証拠でもある。
IP57等級の耐久性と圧倒的なバッテリー性能
地味だが重要な進化として、耐久性の大幅向上がある。AirPods Pro 2のIP54等級に対し、AirPods Pro 3はIP57等級の防塵性能と耐汗耐水性能を備えており、タフなワークアウトや予測不可能な天候に対応する。
さらにバッテリー駆動時間の延長も見逃せない。ANCオン時の音楽再生が最大6時間から最大8時間に33%延長され、ヒアリング補助機能有効時には最大10時間と67%の大幅改善を実現している。1日中装着する人にとって、この改善は見逃せない。
充電ケースも第2世代の超広帯域(UWB)チップを搭載し、「正確な場所を見つける」機能の距離が1.5倍に向上した。ただしこの機能はそもそも日本では利用できず、利用できる地域でもiPhone AirまたはiPhone 17のモデルとペアリングしたAirPods Pro 3のみで利用できるため、注意が必要だ。
地味に嬉しいのは、USB-C充電に加えて、Apple Watchの充電器とQi規格の充電器にも対応すること。ストラップループも付属している。

MagSafe充電が利用できるのは嬉しい
心拍センサーとライブ翻訳が開く新たな可能性
Apple史上最小の心拍数センサーを搭載したことで、AirPodsがフィットネストラッカーとしての機能を獲得した。iPhoneのフィットネスアプリと連携し、50種類以上のワークアウトで心拍数や消費カロリーを追跡できる。ワークアウト中に別途Apple Watchを装着する必要がなくなるのは、運動習慣がある人には朗報だろう。

AirPods Pro 3だけ身につけていれば、心拍数が計測される

Apple Watchと組み合わせることで、よりしっかりと計測できる
AirPods Pro 3は心拍センサーを搭載しています。そのため、ゴリミーはそれを検証するために、炎天下でHIIT(高強度インターバルトレーニング)をやるハメになりました。まあやると決めたの、僕なんですけどね。 pic.twitter.com/5aD7iqR5N5
— g.O.R.i(ゴリミー管理人) (@planetofgori) September 15, 2025
さらに注目すべきはApple Intelligenceによるライブ翻訳機能だ。AirPodsを装着して自然に話すだけで、リアルタイムで異なる言語に翻訳してくれる。iPhoneをディスプレイとして使用すれば、相手の言語での音声再生や文字起こし表示も可能だ。言語モデルを事前ダウンロードすれば、オフラインでも使用できる点は実用的と言える。
実際に英語とスペイン語で体験してみると、お互いの言語が分からない時と同様に、丁寧かつゆっくり話すようにして話せば十分に利用できる速度だった。翻訳が聞き取りやすいように自動的にノイズキャンセリングの強度が調整されるなど、AirPodsならではの強みも活かされている。
日本語は発売時点では非対応。2025年内に対応を予定している。
AirPods 4 ANCとの決定的な違い
現在のイヤホン型AirPodsラインアップは、AirPods 4とAirPods Pro 3の2択だ。AirPods 4にもアクティブノイズキャンセリング対応モデルが用意されているが、性能面では断然AirPods Pro 3が優れている。
最大の違いはバッテリー駆動時間で、ANCオン時にAirPods Pro 3は最大8時間に対し、AirPods 4 ANCは最大4時間と半分だ。充電ケースを使用した場合でも、AirPods Pro 3はANCオンで最大24時間に対し、AirPods 4 ANCは最大20時間となっている。
さらにAirPods Pro 3には心拍数センサーによる50種類以上のワークアウト追跡機能があり、これはAirPods 4 ANCにはない大きな特徴だ。耐汗耐水性能もAirPods Pro 3のIP57等級に対し、AirPods 4 ANCはIP54等級と差がある。
“普通の人”がどちらか一方を選ぶとしたら、僕は1万円高いAirPods Pro 3をおすすめする。ノイズキャンセリングの高い効果、運動中の安定性、そして新機能の数々を考慮すれば、上位モデルに相応しい価値がある。
Appleエコシステムでの真価
個人的に「もうAirPods以外は使えない」と感じる最大の理由は、Appleデバイス間の速やかな切り替え機能だ。Mac、iPad Pro、iPhoneの3台体制を行き来する僕としては、すべてのデバイスから同じイヤホンで音が聞ける快適さは何物にも代え難い。
一般的なイヤホンのマルチペアリングは2台までの制限が多く、切り替えにも引っかかりがある。AirPodsは恐ろしく速やかで瞬時に切り替わる。この快適さを一度覚えてしまうと、他の選択肢は考えられない。
ただしAirPods Pro 2に既に満足している人にとっては、買い換えを急ぐ必要のない製品かもしれない。すでに完成度が高い製品をさらに改良するのは至難の業であり、その意味でAirPods Pro 3の進化は着実だが控えめと言える。
3年ぶりのアップデートとなったAirPods Pro 3は、確かに「劇的な進化」ではない。しかしそれはAirPods Pro 2があまりにも完成されていたからとも言える。それでもAppleは着実に改良を重ね、心拍センサーやライブ翻訳機能により「できること」の選択肢を広げた。
愛用しているAirPods Pro 2がそろそろ限界を迎えているという人には、AirPods Pro 3は買って間違いない製品だろう。完成度の高い製品をさらに磨き上げた、Appleらしい堅実なアップデートと評価したい。
























LEDライトとペアリングボタンがなくなって、困ることはないのだろうか。