Google Pixel Fold レビュー:器用貧乏
iPadを使いこなせない人は、折畳スマホも使いこなせない説
Pixel Foldのような折畳スマホがあれば、QOLは上がるのだろうか。生活は便利になるのだろうか。人生は豊かになるのだろうか。
Pixel Foldのハンズオンからしばらくして、GoogleよりPixel Foldの実機を約5日間貸し出してもらった。普段の生活の中でPixel Foldのある生活で見えてくる世界はあるのか、興味津々だった。
Google本社でのハンズオンでは、基本的な機能や折畳スマホの魅力を教えてもらうことができたが、普段の生活で使うことでわかっていることは多数ある。実際に5日間を通じて、ハンズオンでは気にならなかったが気になったり、何とも思わなかった機能に魅力を見出したりした。
Google Pixel Foldのような折畳スマホが気になっている人は、参考にしてもらいたい。
「iPad miniとiPhoneのいいとこ取り」になるのか
折畳スマホの魅力は「スマートフォンとしての機能を持ち合わせながら、小型タブレットのような大画面をポケットに持ち運べること」だろう。実際にそのような使い方ができるのか。
内側ディスプレイ、普段の使い方では活かせるシーンが少ない
実際にポケットに入れて生活してみると、意外と重い。Pixel Foldのハンズオンでは気にならなかったが、実際にポケットに入れて生活してみると、重量感がある。
Pixel Foldの重量(283g)は、iPhone 14 Pro Max(240g)を上回る。衣類が全般的に薄くなる季節のポケットには、負荷の高い重さだ。水陸両用パンツを履いた際には、ポケットが裾の下からはみ出してしまうことがあった。
入手してから最初の24時間、僕は優越感で溢れていた。まだ世間に出回っていないデバイスであるということよりも、時代の最先端技術をポケットに入っているという事実に興奮した。タッチ操作できるディスプレイが折り畳めるなんて凄すぎる。ケータイの赤外線通信機能で自宅のテレビを無駄に操作していた頃と同じ興奮を感じた。
ハンズオンで確認できなかった、iPad miniとの画面サイズを比較してみた。第一印象は、「思ったより広くない」「iPad miniのほうが見やすい」だった。
それもそのはず。Pixel Foldの内側ディスプレイはアスペクト比6:5の7.6インチ型。iPad miniは7.9インチとなっており、アスペクト比は約3:2(厳密には1.5:1)だ。アスペクト比の違いは、縦向きに両デバイスを持った際に、表示領域に大きな差が出た。
そもそもiPadをブラウジング目的で使用することはない。最も開いているアプリはTwitterだ。それならばTwitterアプリを試してみようと開いたところ、この有様だ。期待していただけに、これには本当にガッカリした。
幸いにも向きを変えることで、全画面表示は可能。しかし折畳スマホの特性を生かしたUIは用意されておらず、あえて内側ディスプレイを使う意義は見出せなかった。マルチウィンドウ表示を使った画像のドラッグ・アンド・ドロップも非対応。Twitterには向かないデバイスだ。
幸いにも、外側ディスプレイを使用すれば、Twitterを含むすべてのアプリは違和感なく使える。Pixel Foldの外側ディスプレイは、最大120Hz、コントラスト比1,000,000:1、408ppiの5.8インチ型。筐体が薄いため「Androidスマートフォン」として違和感なく使用できた。
内側ディスプレイを使ったYouTubeの再生は、思ったほど感動が少ない
折畳スマホを愛用するガジェット好きは、「折畳スマホは映画、マンガ、YouTubeなどを楽しむ”エンタメデバイス”として最高」と暑く語っていた。しかし僕は映画は見ず、マンガも読まない。折畳スマホには向いていないユーザーであると自覚している。
幸いにもYouTubeは見る。そこでYouTubeの視聴体験を比較してみた。
まずは外側ディスプレイを利用した場合。再生画面の広さは、iPhone 14 Proと同程度のだ。
次に内側ディスプレイ表示に切り替えた。実はこの体験こそが、ハンズオンと比べて大きく下回った。「さすがPixel Fold」と感じるような広さではなかった。上下に無駄な余白があり、ディスプレイサイズを活かしきれていないような印象のほうが強い。さすが「折畳スマホ」の感動より、「画面の広さを活かせていない上に持ちにくい」のほうが勝った。
iPad miniと比べると、ディスプレイサイズは0.3インチ差だが、再生画面の広さは雲泥の差だ。残念ながら、これは「iPad miniをポケットに持ち運べる」とは言えない。
しかし完全に折り畳まず山折りにして立てることで自立する仕組みは、想像以上に便利だった。Pixel Foldを借りている数日間は、毎日のようにPixel Foldを風呂に持ち込み、風呂蓋の上に置いてのんびりとYouTubeを眺めながら半身浴をしていた。
Pixel Foldのカメラ性能を少しだけ試す
Pixel Foldには、合計5つのカメラが搭載されている。本来であればカメラのポテンシャルを試すために夜の街で作例を撮りたかったが、時間的な制約の都合上、日中の限られたタイミングで撮影した作例を見てもらいたい。すべて撮って出しの写真となっており、一切編集していない。
内側フロントカメラで撮影した写真と、外側の広角カメラを利用したセルフィモードで撮影した写真に大きな画質差があることには驚いた。この違いを知った以上、内側フロントカメラを使う気にはなれない。
内側フロントカメラで撮影
比較として、iPhone 14 Proで撮影した写真を載せておく。写真の善し悪しは個人の好み次第であることを前提として、僕は総じてiPhone 14 Proの写真のほうが好みだった。
左がiPhone 14 Pro、右がPixel Fold
左がiPhone 14 Pro、右がPixel Fold
Google Pixel Fold レビュー:タブレットユーザー向きデバイス?
Pixel Foldを手にすると、目新しさからつい内側ディスプレイを使いたくなってしまう。しかし日頃から折畳スマホを愛用しているYouTubeチャンネル「monograph」の堀口英剛氏は、「普段は外側ディスプレイをメインで使う」と語っていた。
意識的に外側ディスプレイを中心に使ってみたが、使うたびに違和感があった。Pixel Foldの真価は開ける内側ディスプレイであり、「スマートフォン」としては際立つ機能がない。外側ディスプレイを中心に使うことは、基本的に「スマートフォン」として使うことを意味する。「何のために折畳スマホを使っているのか」を自問自答せずにはいられなかった。
Androidスマートフォンとしては申し分がない。LINEも使える。Facebookメッセンジャーも使える。Instagramも見れる。FeliCaにも対応し、おサイフケータイは利用できる。防水仕様で風呂で半身浴しながらも快適に使える。
しかし「Androidスマートフォン」であれば、4分の1の価格で購入できるPixel 7aで十分だ。Pixel Foldは、内側ディスプレイに価値がある。その価値が理解できなければ、購入しても活用できないだろう。
僕はPixel Foldに向いていない。これまで何度もiPadのある生活にチャレンジしてきたが取り入れられずに挫折してきた。内側ディスプレイのような画面の広さを必要としていなければ、折畳スマホは宝の持ち腐れになるだろう。
Pixel Foldは、スマートフォンでは物足りないがタブレットを持ち運ぶほどではない人にとって、デジタルライフがレベルアップするポテンシャルを持つ製品だろう。iPhoneとiPadを持ち運びたいが、2つのデバイスを持ち運ぶことに対して億劫に感じている人にとっても、iPhoneとiPadを合計した金額を払う価値はあるかもしれない。
マンガや映画などコンテンツ消費が多い人は、大画面を活かすことができる。また複数のアプリを同時に使いたい人は、タブレットの操作性をスマートフォンサイズで持ち運べることに魅力を感じるはずだ。