「高血圧は高齢者のもの」は大間違い。日本の患者4,300万人、3/4が管理不十分で働き盛り世代も危険
重症化で入院した患者の年齢中央値は45歳。50歳未満の脳出血患者、8割は高血圧が未治療
Appleは12月4日、Apple Watchで高血圧パターンを自動検出し通知する新機能を日本で提供開始した。光学式心拍センサーで血管の反応を分析し、30日間のデータから高血圧パターンの兆候が一貫して検出されるとユーザーに通知する仕組みだ。Apple Watch Series 9以降とApple Watch Ultra 2以降が対応する。
「高血圧? 自分には関係ないや」と思っているあなたに、ぜひ読んでほしい。この新機能に関する説明の中で、僕は衝撃的な事実を知った。高血圧は決して高齢者だけの問題ではなく、働き盛りの世代こそ最もリスクが高いという。
高血圧は喫煙を上回る死亡リスク因子。それでも認知率は67%
帝京大学医学部内科学講座教授の柴田茂医師によれば、高血圧は現在でも心血管症による死亡の一番のリスク因子であり、喫煙を上回るという。高血糖、肝障害、高脂血症、BMI高値、飲酒、食塩過多よりも遙かに高いリスクを持つ。
日本の高血圧患者数は2019年推計で全国で4,300万人に上る。このうち、血圧が適切に管理されている方はわずか27%(約1,200万人)に過ぎない。残りの内訳は、血圧が高いことを認知していない人が33%(約1,400万人)、未治療だが認知している人が11%(約450万人)、管理状況が悪い人が29%(約1,250万人)だ。つまり、高血圧患者の3人に1人は自分が高血圧だと知らない状況にある。
柴田医師は、高血圧を日本における「国民病」であり、心血管病のリスク要因として最も重要だと指摘する。
45歳で血圧226mmHg。重症化してから気づく恐怖
さらに衝撃的なのは、重症高血圧で入院した方の年齢中央値が45歳だという事実だ。来院時の血圧は226mmHgと極めて高く、肝臓、心臓、脳、眼などの多臓器に異常を合併している。女性は全体の約20%で、男性の方が多い傾向にある。
高血圧と聞くと「高齢者の病気」だと思い込んでいる人が多いが、実は働き盛りの世代こそ危険にさらされている。50歳未満で脳出血を発症した方の約8割は、高血圧が未治療だった。若い人に意外と多いからこそ、若いときから血圧を知ることが大事なのだ。
重症高血圧は心臓、脳、目、腎臓などの臓器障害を引き起こし、完全に元に戻すことは難しい場合がある。男性の健康寿命は72.6歳、平均寿命は81.5歳。この約9年の差を縮めるためにも、早期からの血圧管理が極めて重要だ。
なぜ気づけない?「サイレントキラー」の恐ろしさ
高血圧は「サイレントキラー」と呼ばれている。症状がないため、脳梗塞、心臓病、腎臓病など様々な疾患の原因となるにも関わらず、自覚することが極めて難しい。
特に40歳未満の働き盛り世代は、働き方が多様化していることもあり、職場の定期健診等以外で定期的に血圧を測る機会が少ない。また、医療機関での1回の測定では見落とされやすいという課題もある。血圧を測る機会が少ないことが、高血圧を見落とす最大の理由なのだ。
収縮期血圧(上の血圧)だけでなく、拡張期血圧(下の血圧)も重要だと柴田医師は指摘する。特に若い方では、活動時などに上の血圧が上がりやすく、拡張期血圧が高いケースが特徴的に見られるという。
装着するだけで30日間分析。でも「設定」は自分で必要
Apple Watchの高血圧パターン通知機能は、光学式心拍センサー(PPG:光電脈波)からのデータを使用し、ユーザーの血管が心臓の鼓動にどのように反応するかを分析する。アルゴリズムは、ユーザーが起きている時間帯にバックグラウンドでパッシブ(受動的)に動作し、30日間にわたってデータを確認する。
ただし、30日間の評価期間のうち、機能が動作するために最低14日間のデータ収集が成功している必要がある。また、この機能はユーザーがヘルスケアアプリに移動し、自ら設定を行う必要がある点に注意したい。機能が追加されたという通知は、ユーザーには特に出ない。
柴田医師は、Apple Watchのようなウェアラブルデバイスが、多くの人々に血圧への関心を持たせるきっかけとなる点に期待を寄せている。装着するだけで継続的にバイタルデータが計測されるため、継続性という点で大きな利点があるという。
「無駄に不安にさせない」設計。特異度92.3%の信頼性
Appleはこの機能を総参加者数10万人を超える研究データを使用して開発し、2,000人を超える未診断の成人を対象とした臨床研究で検証している。
このアルゴリズムは、偽陽性(誤って高血圧ではない人に通知すること)を最小限に抑えるため、高い特異度を優先して設計されている。臨床検証の結果、全体特異度は92.3%、正常血圧の参加者に限定した場合の特異度は95.3%だった。この高い特異度により、通知が高血圧ではない人に不必要な不安を与えることを抑えている。
重症度の高いステージ2高血圧に対する感度(実際に高血圧の人に正しく通知が届く割合)は53.7%。この機能により、最初の1年以内に診断されていない高血圧パターンを抱えた100万人を超える人々に通知が届くと予想されている。
睡眠時無呼吸との関連性も。80%が診断に至っていない
睡眠時無呼吸と高血圧の関連性についても言及された。睡眠時無呼吸の患者の80%が診断に至っておらず、自覚がない状況だという。
睡眠時無呼吸は二次性高血圧(原因が特定できる高血圧)の原因の1つとして挙げられており、両者には関連性がある。Apple Watchは、睡眠時無呼吸の兆候を検出するために加速度計とセンサーを使用し、呼吸の乱れをモニタリングする機能も備えている。これらの機能を組み合わせることで、より包括的な健康管理が可能になる。
血圧を5下げるだけでリスク10%減。「朝130」を目指そう
柴田医師によれば、収縮期血圧が5mmHg低下すると、心血管病のリスクは約10%低下するという研究結果がある。わずかな改善でも大きな効果が期待できるのだ。日本高血圧学会は、家庭での血圧目標として「朝130」を目指すキャンペーンを実施している。
重要なのは、Apple Watchの通知は高血圧である可能性の発見に過ぎず、血圧を診断したものではないという点だ。医療行為を代行するのではなく、「気づき」を与えるために設計されている。
通知を受け取った場合、ユーザーは次のステップとして、家庭用の血圧計で血圧を測定することが推奨される。ヘルスケアアプリ内で血圧の記録を設定でき、測定結果(7日間や4週間など)はPDFとして書き出すことが可能だ。この情報を携えて医師に相談することで、早期からの血圧管理につながる。
柴田医師の願いは、「ちゃんと血圧を測ってほしい」ということだ。Apple Watch Series 9以降、またはApple Watch Ultra 2以降を持っている方は、この機会にヘルスケアアプリで設定を確認してみてはどうだろうか。
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