iPhone用保護ガラスの違いや選び方が分からないので、業界のベテランメーカーに聞いてきた
iPhoneのディスプレイは極力割りたくない。なぜなら「AppleCare+」に加入していないと修理費用が高額だから。万が一落とした時に画面を守るために、僕らはとりあえず保護ガラスを購入するのだ。
様々なメーカーからiPhone用保護ガラスが提供されているが、結局どれを購入すればいいのか、よく分からない。さらにいうと、「9H」「2.5D」などの用語もイマイチよく分からない。
そこで、これらの疑問を解消するべく「CRYSTAL ARMOR(クリスタルアーマー)」ブランドを展開する株式会社アピロスに取材してきた!
2011年に会社設立以来、フッ素コーティング剤を皮切りにガラス保護フィルムのトップランナーとして活躍している同社ならではのこだわりや誕生秘話、そして多くの人が気になっているであろう保護ガラスの選び方のポイントについて聞いてきたので、参考にどうぞ!
アピロスが強化保護ガラスに着手した理由
まずは意外と知られていないであろう、保護ガラスの誕生秘話から。
アピロスは2011年11月21日に設立。同社が強化ガラスに着手した理由は、フッ素を利用した指紋防止コーティングに関する依頼がiPhoneのメーカーから連絡がきたことがきっかけ。
当時、政岡健太郎社長はスプレーコーターの会社に所属していたため、その技術を利用し、ディスプレイコーティング技術を各社に提供。当初は法人向けサービスとして提供していたが、消費者向けのサービスを提供できないかと思い、フッ素コーティング液体を会社設立後1ヶ月で販売開始。
大手メディアに取り上げられたこともあり、これが爆発的にヒット。ところがある問題点に直面。
それは、フッ素コーティングはガラスしか利用できないということ。当時のiPhoneを含むスマートフォンではディスプレイにガラスを使用することが一般的でなかったことや、保護フィルムが主流だったことから、フッ素コーティングが利用できなかったのだ。
そこで、社長が思いついたのは新しいコーティング剤……ではなく、端末に貼ることができるガラス。そう、直接塗るのではなく貼るものを用意してさらにその上にフッ素を塗る、という戦略。天才ビジネスマン、現る!
2012年8月、フッ素コーティングとガラスをまとめた「究極保護キット」を販売。結果、バカ売れ。言われてみれば僕も当時、「フッ素」と「ディスプレイ」とキーワードが話題になっていたことを微かに覚えている。
その後、フッ素コーティングされたガラスを販売しようという流れになり、2012年11月にはCRYSTAL ARMORを設立。こうしてアピロスの「強化保護ガラス」は生まれ、世の中に端末のディスプレイ面を保護するアクセサリーが誕生したのだ。
知ってた?強化ガラスはこのように作られているのだ
アピロスの歴史とiPhone用保護ガラスの成り立ちが分かったところで、実際に保護ガラスがどのようにして作られているかを知っている人は少ないはず。
……はい、そこの君!「ちゃんと貼れれば作り方なんてどうでもいい」なんて言わずに、なんで保護ガラスには数百円のものから数千円のものまであるのかが分かるので、読もう!
たかが1枚のガラス、と思うかもしれないが、保護ガラスは様々な手間が掛かっているだけではなく、今でも絶えず進化しているのだ。僕らの不注意で割れてしまうディスプレイを守るべく、最新技術が次々と投入されているのだ。
保護ガラスができるまでの流れ
全体の流れとしては、大きいガラスを整え、ディスプレイに最適化されたサイズにカットした後、ラウンドエッジ加工を施し、化学強化および2次強化が施される。
今や当たり前のように見かける「ラウンドエッジ加工」という言葉だが、最初に言い出したのはアピロスの政岡社長らしい。ラウンドエッジ加工、命名の親!
その後、「CRYSTAL ARMOR」シリーズならではの「DLC加工」や「抗菌加工」が施され、ブルーライトカット・覗き見防止用の場合はそれぞれのフィルムを張り付け、ディスプレイに貼り付けるための粘着層を用意し、完成。
図にまとめると下記のようになる。
ガラスの強度の決め手となる要因:化学強化、ガラスの種類
さて、保護ガラスの強度は、基本的に使用しているガラスの種類と、「化学強化」および「2次強化」と呼ばれる工程によって変わる。
「ソーダライム」と「アルミノシリケート」
ガラスの種類には「ソーダライム」と呼ばれるものと、「アルミノシリケート」と呼ばれるものがある。ものすごく雑に説明すると、ソーダライムは強度が低いが安く、アルミノシリケートは強度が高いが価格も高い。
ソーダライムは通称「青板」と呼ばれている。角度によって青く見えることが由来となっていて、数百円台の保護ガラスは極めて高い確率でこの素材を使用している。
一方、アルミノシリケートはスマホのディスプレイなどにも使用され、「ゴリラガラス」や「ドラゴントレイル」などのブランドがある。「CRYSTAL ARMOR」シリーズは創業以来、ゴリラガラスを使い続けているからこそ、高い強度と品質を提供し続けている。
ゴリラガラスは「Gorilla Glass 4」「Gorilla Glass 5」など定期的にリニューアルされているが、これらは新しくなることによって化学強化を行った際により強度の高いものになるように進化しているそうだ。
つまり、一般的には「Gorilla Glass 4」よりも「Gorilla Glass 5」の方がより強度のあるガラスになるポテンシャルが高く、性能が高いということになる。
その一方で、性能が高ければ価格も高くなるため(iPhoneと一緒)、保護ガラスのように大量生産することを前提とした場合、必ずしも最新のゴリラガラスを使っているとは限らない。
化学強化
化学強化は、もととなっているガラスを強化する液体に漬けることによってガラスそのものを強化する。この時間を短縮すればするほど短時間で量産できるため1枚あたりの価格を下げることができるが、その分強度が落ちてしまう。
「CRYSTAL ARMOR」シリーズは長時間の化学強化を行った後、さらに強度を高めるために2次強化を追加することによって強度を高めているが、低価格帯の保護ガラスはこの手間を省いている可能性が高い。
では、極端に価格帯が安い保護ガラスはどのような工程になっているのか。「CRYSTAL ARMOR」シリーズが予めガラスをカットした状態から各種加工を施すのに対し、低価格帯の保護ガラスはまとまった状態で化学強化を行い、その後カットすることもあるという。
これによって歩留まり率が向上し、化学強化の時間も短縮化した上に2次強化を行わなければ安定して量産しやすくなり、結果的に価格を下げることができるという。
ここで強調しておきたいのは、工程を省いているからと言って保護ガラスとして否定しているわけではない、ということ。
保護ガラスに対して特にこだわりがなく、「一度割れたらまた買い換えればいいや」という気軽な気持ちで購入する人もいる。そのような人は2枚入りで数百円というお得な保護ガラスを選ぶはず。何を隠そう、僕も取材するまではそのような保護ガラスを使っていた。
一方、「CRYSTAL ARMOR」シリーズは強度や抗菌性能を追求した高品質と高性能を追求している。全く異なるユーザー層に向けた製品ということだ。
「DLC加工」とは
「DLC加工」とは「ダイヤモンドライクカーボン加工」のことで、強化ガラスの5倍の硬度になるコーティング。ダイヤモンドと黒鉛の中間的な性質を持つ硬質膜らしく、要はものすごく表面強度が高いということ。
DLC加工が施されている「CRYSTAL ARMOR」シリーズ
「抗菌加工」とは
一方、「抗菌加工」はこれはガラスの中に抗菌機能を埋め込んでいる状態のことを意味する。具体的には銀イオンをガラスの中に埋め込むことによって菌の繁殖を防ぐことに大きく貢献する。しかも、その効果は半永久的に抗菌効果が持続するのだ。
銀イオンの抗菌率は99.9%とされ、「CRYSTAL ARMOR」シリーズの対応製品は抗菌製品技術協議会(SIAA)が制定した抗菌のシンボルマーク「SIAAマーク」を初めて取得した保護ガラスとなっている。
抗菌加工が施されている「CRYSTAL ARMOR」シリーズ
ところで「抗菌加工」という言葉自体は他の保護ガラスでも見たことがあるかもしれないが、「抗菌加工されているのとされていないのと、どれぐらい違うの?」と疑問に思ったことはないだろうか。僕はむしろ、「抗菌加工っていうほど効果あるの?」と疑っていたぐらいだ。
下記動画を見れば、抗菌加工の偉大さが一目瞭然。
「DLC加工」と「抗菌加工」の難しいところは、両方を得ることができない、ということ。どちらかを選ばなければならないのだ。
僕自身、「ガラスの強度が高ければ高いほうがいいでしょ!」と思っていただが、上記動画を見て以来、抗菌加工の方が惹かれている。僕、そもそもそんなにiPhone落とさないし……。
保護ガラスの選び方とよく見かける専門用語の意味
保護ガラスの工程は分かったかもしれないが、結局どの製品を選べばいいのかよく分からない。僕はこの取材を通じて「品質の高い保護ガラスが欲しいならクリスタルアーマー製品を買え」と頭にインプットされたが、他社製品でも何か購入する際に気をつけるべきことはないのか。
政岡社長によると、「保護ガラスの良し悪しは見分けづらい」としつつも、以下のアドバイスをいただいた。
- 量販店で扱っているようなメーカーであるということは結構大事
- 逆にネットでしか売っていないようなメーカーは気をつけるべし
- 日本のメーカー以外は注意した方が良いかも
- ある程度名のしれたメーカーの方が良いかも
- 価格とクオリティは比例している
これを踏まえた上で、店頭にある製品やAmazonで人気商品を見るとなんとなく分かっている気でいた専門用語があった。
例えば、「9H」。この文字が書かれている製品を目にすることも多いが、これは鉛筆の芯の硬さの「H」。引っ掻いた時の傷つきやすさを表す指標となっているため、「9H」までの鉛筆の硬度でも引っ掻き傷に耐えられる、ということらしい。
「2.5D」「5D」などの「何次元だよ!」と言いたくなる言葉に関しては、単なるラウンドエッジ加工のこと。オリジナリティを出すためにあれこれ表現を工夫しているようだ。
最近のiPhoneは、画面割れの修理費用が尋常ではないほど高い。「AppleCare+」に未加入の場合、「iPhone XS Max」は37,400円、「iPhone XS」は31,800円もかかる。
そういう意味では保護ガラスは万が一の時にiPhoneを守ってくれるかもしれない。だから保護ガラスは付けていることに越したことはない。
問題は、品質にどの程度こだわるか。僕はほとんどiPhoneを落とさないため、安い保護ガラスから卒業し、「CRYSTAL ARMOR」ブランドの数千円の製品に乗り換えた。
乗り換えて分かった。確かに政岡社長の言う通り、価格とクオリティは比例している。毎日使うものには金をかけた方が良い、とは言うが、毎日画面に触れるiPhoneだからこそ、保護ガラスは高品質の方が良いかもしれない。