Apple、EUの800億円制裁金に上訴を発表。「法律の要件を大きく逸脱」と真っ向反発
欧州委員会の「不当な介入」を批判、ステアリング定義の拡大と階層化強制に異議申し立て
AppleがEU(欧州連合)のデジタル市場法(DMA)を巡る制裁金に対して、日本時間7月7日に公式声明を発表し、上訴を行うことを明らかにした。同社は「前例のないこの制裁金が法律の要件を大きく逸脱している」として、欧州委員会の決定に真っ向から反発している。
本日、Appleは欧州委員会の決定と、前例のないこの制裁金が法律の要件を大きく逸脱していると考え、上訴しました。私たちの訴えにおいては、欧州委員会が当社のApp Storeの運営方法にまで介入し、開発者にとって混乱を招き、ユーザーにも不利益となるビジネス条件を強制している実態を明らかにしていきます。これらの措置は、日々の懲罰的な制裁金を回避するために実施されたものであり、Appleは裁判所に対し事実を提示してまいります。
800億円の制裁金に至った経緯
この上訴に至る背景には、EUとAppleの長期にわたる対立がある。EUは2025年4月23日、Appleに対して初のDMA非遵守決定を下し、5億ユーロ(約800億円)の罰金を科した。
問題視されたのは主に2つの点だ。1つ目は「アンチ・スティアリング義務違反」で、App Store内で開発者が外部決済サービスへユーザーを誘導することを実質的に制限していたという指摘である。具体的には、外部決済リンクを設置すると27%の追加手数料が課される仕組みになっていた。
2つ目は「コア・テクノロジー手数料(CTF)」の問題だ。AppleはEU向けに年間インストール数が100万件を超えた分に対し1インストールあたり0.50ユーロを課すCTF制度を導入していたが、EUはこれを決済代替措置を選択する開発者への多重課金だと評価していた。
Appleが主張する「不当な介入」の実態
今回の声明で注目すべきは、Appleが欧州委員会の対応を「不当な介入」として具体的に批判している点だ。Appleによると、欧州委員会は当初、Store Services Fee(ストアサービス手数料)という形での対価を認めていたにも関わらず、その後になって階層化を強制したという。
2023年8月に一律のStore Services Feeを発表したAppleだったが、欧州委員会はさらに階層を設け、特定のサービスを開発者がオプトアウトできるようにすべきだと要求。Appleによると、このような階層型モデルを採用しているアプリマーケットプレイスは他にないという。
さらに問題となったのが「ステアリング(誘導)」の定義拡大だ。当初、Appleは開発者がアプリ内でデジタル商品の取引に関するオファーやプロモーションを表示し、EUユーザーを外部のウェブサイトへ誘導できるようにしていた。
「ステアリング」定義の大幅拡大が争点に
しかし、Appleによると、欧州委員会は最近の指針でDMA第5条4項に基づくステアリングの定義を「大幅に、かつ違法に拡大した」という。具体的には以下のような変更が行われた:
- 外部ウェブサイトへのリンクだけでなく、アプリ内におけるオファーのプロモーションも含む
- アプリ内での代替決済サービスの使用も対象
- アプリ内のWebビューでの表示まで含む
- 競合するアプリマーケットプレイスやサードパーティアプリへのリンクも要求
Appleはこうした変更について「法律で意図されていた『ステアリング』の定義を根本的に変えるもの」として、法律が求める範囲を明らかに逸脱していると主張している。
複雑化する手数料体系への対応
こうした状況を受け、Appleは6月27日に新たな手数料体系を発表していた。従来の複雑な仕組みを整理し、以下のような構造に変更した。
- 初回獲得手数料(Acquisition):2%
- ストアサービス手数料(Store Services):5%〜13%(機能利用レベルに応じ変動)
- コアテクノロジー手数料(CTC):5%(2026年1月までにCTFから移行完了予定)
しかし、Appleの声明を見る限り、これらの措置は「日々の懲罰的な制裁金を回避するために実施されたもの」という位置づけだ。つまり、本質的な解決ではなく、あくまで制裁回避のための暫定措置という認識を示している。
法廷闘争の長期化は必至
今回の上訴により、AppleとEUの対立は法廷に舞台を移すことになる。Appleは既に5月30日に相互運用性義務を巡る欧州委員会の決定をルクセンブルクEU一般裁判所に提訴しており、6月6日にも追加の訴訟を開始していた。
この問題の根本にあるのは、AppleのApp Storeエコシステムが持つ「ゲートキーパー」としての影響力をどう規制するかという点だ。EUは巨大テック企業による市場支配を防ぐためDMAを制定したが、Appleは「ユーザーデータ保護」や「ユーザー体験の統一性」を理由に一部規制への対応を拒否している。
結局のところ、この対立は「イノベーションと競争のバランス」をどう取るかという根本的な問題に行き着く。Appleの主張する「ユーザー体験の統一性」と、EUが求める「市場の公正性」。どちらも一理あるだけに、法廷での決着には相当な時間がかかりそうだ。
開発者にとっては手数料体系の複雑化により、EU向けビジネスモデルの再設計が必要になる。一方でユーザーにとっては、より多様な決済手段や外部アプリストアの選択肢が増える可能性がある一方で、選択肢の複雑化による混乱も懸念される。
日本のユーザーにとっても「対岸の火事」ではない
このAppleとEUの対立は、実は日本のユーザーにとっても決して対岸の火事ではない。日本でも「スマートフォンソフトウェア競争促進法」(通称:スマホ新法)の検討が進められており、日本のユーザーが最新機能の利用を妨げられる可能性が高まっている。
さらに深刻なのは、この法律の本質的な問題だ。表向きは「中小企業の競争を促進する」という建前を掲げているが、実際には個人情報を欲しがる大手テック企業が法律を盾にAppleの個人情報保護機能を骨抜きにしようとしている側面が強い。
Appleが長年築き上げてきたプライバシー保護の仕組みが、「競争促進」という名目で破綻させられる可能性がある。これは結果的に、日本のiPhoneユーザーの個人情報が他社に流出しやすくなることを意味している。
今回のAppleの強硬な姿勢を見る限り、この法廷闘争は長期化することが予想される。しかし、日本でも同様の「最悪の法律」が施行されようとしている現状を考えると、僕たち日本のユーザーも今後の動向を注意深く見守る必要がありそうだ。
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