Apple、スマホ新法で「ユーザー保護が脅かされる」と強い懸念表明
26ページの意見書で欧州DMAの教訓を警告、セキュリティとイノベーション阻害のリスクを詳細に指摘
公正取引委員会は6月13日まで、2025年12月に全面施行予定の「スマートフォンソフトウェア競争促進法」(スマホ新法)の運用ガイドライン案に対するパブリックコメントを募集していた。このガイドライン案は、新たな法律を現場に適用する上で必要な考え方をまとめたもので、アプリストアやOS機能、決済システムなどの規制内容を具体化している。
同法は大手プラットフォーマーによる市場独占を防ぎ、公正な競争環境を整備することを目的としているが、指定事業者の一つであるAppleは6月13日、26ページにわたる詳細な意見書を提出し、法律施行に対する強い懸念を表明した。
40年の日本投資が危機に晒される懸念
Appleは意見書の冒頭で、1983年の東京オフィス開設以来40年以上にわたる日本市場への深いコミットメントを強調した。同社は「2017年以降、Apple は日本全国に1,000億米ドル以上を投資している」と述べ、現在では「1,000社近くの日本のサプライヤーの皆様のもとでの仕事を含む、100万人以上の雇用を支えています」としている。
しかし同時に、「今回の規制が慎重に施行されない場合、当社がこれらの目標を実現することができなくなるなど悪影響を及ぼしてしまうことを懸念しています」と明確に警告を発している。特に「Apple がイノベーションを競合他社に提供することを義務付けてしまうおそれもあり、当社が日本のユーザーの皆様に最新のイノベーションをお届けすることができなくなる」として、イノベーション阻害への深刻な懸念を示した。
セキュリティとプライバシー保護の根幹が脅かされる
Appleが最も強く警鐘を鳴らしているのは、ユーザーのセキュリティとプライバシー保護の弱体化だ。同社は「昨年だけでも、安全上のリスクが懸念される116,105件のアプリを世界中で却下しました」「App Store から38,315件の不正アプリと、425件の知的財産権を侵害するアプリを削除しました」として、現在の厳格な審査体制の重要性を数字で示している。
代替アプリストアの許可により、「詐欺、マルウェア、プライバシーやセキュリティの脅威のリスクを高めるアプリマーケットプレイスや決済手段を生み出してしまい、皆様が愛着を持って信頼して下さっている体験を壊してしまうことを懸念しています」と述べた。
さらに深刻な問題として、OS機能への無制限アクセスの危険性を挙げている。「サードパーティがユーザーのすべてのメッセージやEメールを閲覧し、ユーザーのすべての通話履歴を確認し、ユーザーが使用するすべてのアプリを追跡し、ユーザーのすべての写真を閲覧し、ファイルやカレンダーのイベントを確認し、ユーザーのすべてのパスワードを記録すること等を可能にするおそれがあります」と具体的なリスクを詳細に列挙している。
欧州DMAの教訓:新機能提供の遅延が現実に
Appleは欧州のデジタル市場法(DMA)での実体験を踏まえ、「このような解釈は、既に、欧州における新機能の導入の遅れなど、その他の意図しない結果をももたらしています」と警告した。実際に欧州では、iPhoneミラーリングなど最新機能が利用できない状況が発生している。
同社は「日本におけるAppleの新しくエキサイティングな製品や機能のリリース日を、法律への準拠を確保するために延期する必要が生じるおそれがあります」として、日本でも同様の事態が起こる可能性を示唆している。これは日本のユーザーが最新技術の恩恵を受けられなくなるリスクを意味している。
青少年保護とマイナンバー対応への影響
特に注目すべきは、青少年保護への影響だ。「App Review では、ギャンブルやポルノのアプリ、そして暴力を助長するコンテンツなど、日本のユーザーの皆様を有害なコンテンツから保護しています」と述べ、代替アプリストアではこの保護機能が損なわれる可能性を指摘している。
また、2025年6月24日から開始予定のiPhoneでのマイナンバーカード対応についても言及し、「政府サービスへのよりシームレスなアクセスを実現することになりました」としながらも、セキュリティ要件の厳格化により、こうした重要な機能の提供が困難になる可能性を示唆している。
知的財産権の保護と手数料の実態
知的財産権の保護についても、Appleは「日本の実用新案特許及び公開された実用新案出願だけでも3,000件以上を保有しており、そのうちの相当数は、Apple独自のiOS の諸機能、及びiOS がアクセス又は制御するハードウェア及びソフトウェアの機能に関するもの」であることを強調した。
App Storeの手数料についても実態を明確にし、「Apple が手数料を徴収しているのは全体の約10%の取引のみで、90%以上の売上については開発者が手数料を支払っていない」という事実を示している。また、「過去5年間に、Apple は世界中で90億米ドルの不正取引を阻止しました」として、セキュリティ対策への投資の価値を強調した。
規制の明確性と柔軟な施行を求める
Appleは「新たな法的枠組みの下では、規制要件の明確性が不可欠です」として、ガイドライン案の「望ましい」「望ましい措置」という表現の削除を要求している。これらの表現が「法的拘束力のある義務であると誤解させるおそれがある」ためだ。
最終的にAppleは「日本における競争的かつ革新的なデジタル市場を促進するために引き続き尽力する」としながらも、「本法の精神に則った代替的な解決策」の検討を求めている。同社は「日本が、日本の企業と消費者の皆様にとって、Apple の最新かつ最先端の製品及びサービスを利用できる、最上位のテクノロジーの集積地であり続けるためには、規制の確実性が不可欠です」と述べ、慎重で柔軟な法律施行を強く求めている。
この意見書は、スマホ新法を「ユーザーの安全とプライバシーを脅かし、イノベーションを阻害する可能性がある規制」として捉えるAppleの立場を明確に示したものと言える。欧州DMAの教訓を活かした、より慎重で柔軟な施行が実現されるかが今後の焦点となりそうだ。
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