iPodからiPhoneへ。Apple「手のひらデバイス」25年の進化を、自分の体験とともに振り返ってみた
コピペすらできなかったiPhone、"裏のApp Store"が盛り上がった脱獄時代、そして「なくては生きていけない」存在になるまで
2026年4月1日、Appleは創業50周年を迎える。1976年にガレージで産声を上げた会社は、世界で最も価値のある企業へと成長した。その50年の歴史のうち、約半分は「手のひらに収まるデバイス」が主役だった。
iPhoneやAirPodsは知っているけど、Appleのことはよく分からない。そういう人にこそ知ってほしい、Appleの”手のひらデバイス”の歴史を改めて振り返ってみたい。そして僕自身の体験も交えながら、この四半世紀の進化がいかに凄まじいものだったのかを伝えたいと思う。Tim Cook氏は「iPhoneにはまだまだやれることがある」と語っているが、ここに至るまでの道のりを知ると、その言葉の重みがまるで違って聞こえるはずだ。
1,000曲をポケットに入れた革命児「iPod」
2001年10月23日、Appleは初代iPodを発表した。容量5GB、約1,000曲の音楽が入って、価格は399ドル。当時の携帯音楽プレイヤーといえばCDウォークマンやMDプレイヤーが主流だった時代に、「1,000 songs in your pocket(1,000曲をポケットに)」というメッセージは強烈だった。
ちなみにiPodの名前の由来は、映画『2001年宇宙の旅』に登場する「Open the pod bay door, HAL」というセリフから着想を得たものだとされている。Apple製品の名前にはいつもストーリーがある。
2004年にはiPod miniが登場。シルバー、ゴールド、ピンク、ブルー、グリーンの5色展開で、今のAppleのカラー戦略の原点とも言えるモデルだ。その後もiPod nano、iPod shuffle、iPod touchと派生モデルが次々と生まれ、約20年の歴史の中で推計4億5,000万台を販売。2022年に惜しまれつつ販売を終了した。
僕自身、iPod miniを使っていた。ケースに入れて持ち歩き、アカペラグループ・Vox Oneのサインまでもらっていた。大学時代はアカペラサークルに所属しており、膨大な量のアカペラ楽曲を聴きまくっていたので、「大量の音楽を持ち運べるデバイス」としてのiPodは本当に貴重な存在だった。それ以前はおそらくMDプレイヤーだったと思うが、正直よく覚えていない。iPodのインパクトがそれほど大きかったのだろう。
あのiPod mini、実家の電話機の横のカゴに入れていたところまでは覚えている。一人暮らしを始めてからどうしたのか、まったく思い出せない。でも絶対にどこかにあるはずだ。今は友人のApple製品コレクターから譲り受けたiPodを大切に飾っているが、いつかあのVox Oneのサイン入りiPod miniも見つけ出したいと思っている。
「iPodを殺すのは携帯電話だ」──Jobsの予言
iPodが飛ぶように売れていた2005年、Steve Jobsは取締役会でこう警告した。「iPodを殺すのは携帯電話だ。自分たちでやらなければ、他社にやられる」。自社の稼ぎ頭を自ら食い殺す決断。これがAppleをAppleたらしめている判断力だと思う。
社内ではiPodチームのTony Fadellが「iPodを大きくして電話機能を足す」アプローチを、MacチームのScott Forstallが「Macを小さくしてポケットに入れる」アプローチを提案し、2チームが競い合った。結果的にはMacチームのアプローチが主に採用され、これが後のiOS(当時はiPhone OS)の基盤となっている。

初代iPhoneの発表(2007年1月9日、Macworldにて)
実はiPhoneの前に、AppleはMotorolaと組んで「ROKR」というiTunes対応の携帯電話を世に出している。だがこれが見事な大失敗。この経験がAppleに「自分たちで全部作るしかない」と腹を括らせた。そして2007年1月9日、サンフランシスコのMacWorldで、あの伝説的なプレゼンテーションが行われる。Jobsはステージ上で、iPod、電話、インターネット端末──3つの別々のデバイスではなく、たった1つのデバイスなのだ、という趣旨の言葉で会場を沸かせた。世界が変わった瞬間だった。
不完全だったからこそ楽しかった、iPhone黎明期
日本にiPhoneが上陸したのは2008年7月11日。ソフトバンクからiPhone 3Gが発売された。僕の初めてのiPhoneも、このソフトバンクのiPhone 3Gだった。契約にあたり、何かしらの理由でセゾンカードが必要で、初めてクレジットカードを作った。初めてのiPhoneのために初めてのクレジットカード。今思えば、あのときの緊張感も含めて”iPhone体験”だったのだと思う。
初代iPhoneにはコピペ機能すらなかった。通知機能もない。今では当たり前すぎて想像もできないだろうが、当時はそういう時代だったのだ。Gmailの通知を受け取るためだけにGPush for iPhoneというアプリが必要だった。2009年にそのアプリについて記事を書いている。
当時の必須アプリを振り返ると、Twitterfon Pro(Twitterアプリ)、Byline(RSSリーダー)、Pennies(家計簿)、Occasions(誕生日通知)などが並んでいる。いかにiPhone単体でできることが少なかったかを物語るラインナップだ。
だけど、それが楽しかった。足りない機能をアプリで補い、工夫を凝らして自分だけの環境を作り上げていく。当時はiPhoneとガラケーの二台持ちが当たり前で、その後ガラケーがAndroidスマートフォンに置き換わるなど、過渡期らしいガジェットだらけの生活も経験した。本当に楽しい時代だった。毎年の進化が著しく、新モデルが出るたびに盛り上がった。あの当時現地で取材していた人は、相当楽しかったに違いない。
「脱獄」という名の黎明期カルチャー
ゴリミーとiPhoneの歴史を語る上で避けて通れないのが「Jailbreak(脱獄)」だ。簡単に言うと、iOSの脆弱性を突いてOSを書き換え、公式にはない機能を勝手に実装してしまう行為のこと。2008年に登場したCydiaという”裏のApp Store”を通じて、コピペ機能からマルチタスクまで、ありとあらゆる機能がユーザーの手で実現されていた。
今は諸事情によりゴリミーの脱獄関連記事はすべて取り下げているが、あの当時の脱獄コミュニティの熱量は凄まじかった。公式が実装する前に、ユーザーが勝手に”未来のiPhone”を作り上げていたのだ。Appleが後から公式機能として追加したものの中にも、元々は脱獄コミュニティで生まれたアイデアが少なくない。
僕は以前から「WindowsのMac化」を楽しんでいたタイプの人間なので、脱獄の世界は本当に性に合っていた。足りないなら自分で作る。不完全だからこそ公式の発表が盛り上がり、脱獄の世界も盛り上がる。あれは黎明期ならではの熱狂だった。
「毎年買い換えなくてもいい」という成熟
2013年のiPhone 5sでTouch IDが搭載され、指紋認証が日常になった。2017年のiPhone XではFace IDとともにホームボタンが消え、iPhoneのデザイン哲学が大きく変わった。毎年のように革新的な進化が続き、気づけばiPhoneは「毎年買い換えなくてもいい」と断言できるほど完成度の高いデバイスになっていた。
昔はスペックに一喜一憂していた。今もスペックが嫌いなわけではないが、もうその時代は僕の中ではある程度過ぎていて、優先度が少し下がった気がする。今は熱狂するというよりも、かゆいところに手が届く進化、地味だけどQOLが上がる改良が楽しみになっている。これは「つまらなくなった」のではなく、iPhoneが生活に根付いた証拠だと思う。
手のひらから、手首と耳へ
Appleの”手のひらデバイス”の進化は、iPhoneだけにとどまらない。2015年に発売されたApple Watchは、手のひらから手首へとデバイスの領域を広げた。初代Apple Watchにはなんと18金ゴールドモデルが存在し、最上位モデルは税別218万円という価格だった。今となっては信じられないラインナップだ。

2018年のApple Watch Series 4では、FDA(アメリカ食品医薬品局)が認可した心電図機能を搭載。「ガジェット」から「命を救うデバイス」へと役割が変わった瞬間だった。一方、2016年に登場したAirPodsは、iPhone 7のイヤホンジャック廃止と同時に世に出た。批判も多かったが、今やワイヤレスイヤホンの代名詞的存在になっている。
手のひら、手首、耳。Appleのデバイスは年々、身体に近づいている。この流れの先に何があるのか。Apple Glassなのか、まったく新しい何かなのか。想像するだけでワクワクする。
次の50年を、自分の目で
僕にとって一番手放せない”手のひらデバイス”は、言うまでもなくiPhoneだ。AirPodsもApple Watchも、最悪なくてもなんとかなる。不便極まりないが、多分なんとかなる。だけどiPhoneはもう無いと生きていけない。
iPhoneがあることで、家族や友人と連絡が取れる。仕事ができる。写真や動画を撮って、”今”という瞬間を切り取って残すことができる。これほど人生を豊かにしてくれるデバイスが他にあるだろうか。
Tim Cook氏は「iPhoneにはまだまだやれることがある」と語った。その言葉を聞いて思う。iPhoneの進化による”熱狂”という役目は、もう終えている気がする。だけどその先に、きっとまた新しい熱狂がある。新しい形状のiPhoneなのか、それとも完全に新しいデバイスなのか。どういう形かは分からない。
だけど僕は、次の50年──Apple創立100周年をしっかりと自分の目で見届けられるように、長生きしたいと思っている。
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