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スマートフォン対応について思うこと

ご存知の方も多いと思うが、僕はモバイルの会社に勤めている。僕の仕事は基本的に公式課金サイトの運営なのだが、今年の夏モデル発表会でもあったとおり、モバイルキャリア最大手のドコモもようやく重い腰をあげてコンテンツビジネスにも力を入れることを発表した。

特に日本中のCPが注目しているのはiモード情報が引き継げる、というサービス。auのように、ガラケーの公式コンテンツがスマートフォン用コンテンツを用意していたとしても、そのまま情報を引き継げない、というのが課題だったのだが、今年中にそれが可能にあるという内容だった。

これを受けて、各社はそれぞれの公式コンテンツ媒体を必死にスマートフォン対応していると思うが、僕は進め方について大いなる疑問を感じている。実際に手を動かすエンジニアとして、かつ、スマートフォン移行を進める組織の一員として、納得のいかない点を下記にまとめておく。

スマートフォンに乗り換えたユーザーはもう「スマートフォンユーザー」である

僕もそうだったが、スマートフォンに乗り換える人は今は現状ガラケーを使っている人が殆んどである。スマートフォン対応をする一つの大きな理由に、上記にもあった通り、「既存のガラケーユーザーが移行した時に、(受け皿が用意されていれば)そのまま情報を引き継げるようにする」ことなのだが、最近スマートフォンを手にした友人や知り合いを見て思うのは、スマートフォンを買ったらスマートフォンなりの使い方をする、ということ。逆に言えば、スマートフォンを手にして今までのようにiモードサイトを求める人はそれほどいない。

スマートフォンに乗り換えたユーザーはPCサイトが見れるケータイ、という認識をしている人も非常に多いようだ。仮にそうだとすれば、「PCサイトが見れる=無料で何でも見れる」という風に無意識的に思っている人も少なくないだろう。このようなユーザーが果たしてウェブコンテンツで課金をするのだろうか

また、スマートフォンと言えばアプリだと思うのだが、元ガラケーユーザーとはいえ、既にそれなりに周りに持っている人がいれば、ガラケーの時のようにウェブで課金する、というよりは買い切りでアプリを購入するのが一般的にであることぐらいすぐに分かるはず。周りがスマートフォンを持っているからスマートフォンを買う。周りがアプリで遊んでいるから自分も遊ぶ。月額課金を必要とするウェブコンテンツが入る余地は殆どない

つまり、まとめると、スマートフォンに乗り換えた瞬間、「元ガラケーユーザー」ではなく、「スマートフォンユーザー」になる。ガラケーを使っていたからそのまま同じような使い方をするとは到底思えない。なぜなら、既にスマートフォンを手に取って使っている人たちは「スマートフォンユーザー」になっているから。

死会員で儲けることを前提にしたサービスは成功しない

公式課金コンテンツが主にベースとしている課金システムは月額課金、メインの収益源は言うまでもなく「死会員」。つまり、会員登録をしているもののサービスを殆んどもしくは全く利用していないユーザーの継続的な登録によって成り立っていると言っても過言ではない。ドコモが用意した引き継ぎ方法を利用すれば、「死んだ」会員をそのままスマートフォンに移行させることが可能になるという読みだ。

ただ、こんなにうまくいくのだろうか。まず、ドコモは引き継ぎをしてくれるが、機種変時にそれをユーザーに告知せずにそのまま引き継ぐことはさすがにしないとすると、そもそも「死んだ」会員はそこで使っていないサービスを解約する可能性は低くない。この時点で実質全てがリセットされるようなものである。

さらに、前項目にも書いた通り、ユーザーは「スマートフォンユーザー」になるので、そもそも月額サービスについては今後目もくれない可能性がある。なぜなら、月額課金をしなくても欲しい情報が手に入るから。自動継続課金をしてそのまま忘れてしまうリスクを最小限に抑える形で欲しいコンテンツが手に入るのであれば、あえて月額登録してコンテンツを利用したいと思わないだろう。月額課金というビジネスモデルそのものが成り立たなくなるのである。

加えて、先日書いたポストでも述べたが、そもそもウェブでサービスを提供しても使ってもらえない可能性が高い。スマートフォンユーザーになった以上はアプリを使うようになり、ウェブにいちいちアクセスしてコンテンツを閲覧するという時代は終わったのである。

以上について考えると、今後死会員で儲けるというビジネスモデル自体成り立たなくなる。月額課金というビジネスモデルがかつてほど甘くないということと、ウェブでコンテンツを利用するということがなくなるから。

作る楽しさを理解することができない

これは一般的にそうなのか分からないが、個人的に社内事情として強く懸念しているので、明記しておく。

僕は以前からモバイルもPCも好きで触れてきて、このブログもそうだが自分で多少のコーディングも出来る程度の知識はある。だが、実際運営者はそういう人ばかりではない。というのも、モバイルサイトを運営する上で必要な知識は案外少なくて済むからである。実際ある程度の画像とdiv align=centerとfont sizeとfont colorさえあればそれなりのページは作れる。

ただ、スマートフォン用ページはそうはいかない。作り方そのものに関してはほぼPCと同等であり、ガラケーのウェブページよりカスタマイズ出来る範囲が圧倒的に広い。特に、HTML5とCSS3を駆使すれば今まで実際に画像を作らなければならなかった画像エフェクトをコードだけで実現出来る。つまり、自分の実力さえ磨けば自分の作りたいと思えるサイトやページを作ることが出来るし、今まで妥協してきたような細かいデザインや配置などにいくらでも凝ることが可能なのだ。

残念なことに、現状だとその楽しさを分からずに大した実力も付かずに終わる可能性がある。まず、ガラケーのサイトしか触れたことがない人にとってはHTMLとCSSという2つの要素でページデザインが成り立っているということ自体も衝撃なのである。ガラケー向けサイトは外部CSSファイルを持つことを出来ないのでその反応は当然である。ただ、その概念さえも理解する前にページ作成に入ってしまっている現状がある。何よりも大事なベースとなる概念をスルーして進めさせられている。

さらにドコモの引き継ぎサービスが開始するまでにサイトの移行を無理やりなスケジュールを組み、ただえさえ通常の業務が忙しいのにスマートフォン移行を上乗せさせられてしまっては、楽しむ暇もなくとにかく早く終わらせて帰りたい、という思いで作業をする人も少なくないだろう。別に全員が全員ウェブクリエイターやデザイナーである必要は当然ないのだが、少なくとも今まで以上に自分好みにカスタマイズして制作出来るページを経営層の無謀なスケジュールによって誰も学べないで終わる。

正直信じ難いのは、このドコモの移行サービスで一体どれぐらいの人が移行するのかさえも分からないのに必死に移行作業をしているという事実。上記に書いた通り、機種変更時にユーザーに告知があるとすれば死会員をそのまま持ってくるのはほぼ不可能。どうせならしっかり時間をとって一からサイトを構築し直すようにつくりこんだ方が新規ユーザー獲得の可能性も高くなると思うのだが、どうなのだろうか。普段は「他社の動向を見てから手を打つ」という二番煎じ宣言を率先してきたのに、スマートフォン移行だけ急に「スピード感(笑)!スピード感(笑)!」と言い出して対応を急かすのはどうしたものか。

コードが全世界に公開されることに対する危機感の無さ

くどいようだが、スマートフォン向けサイトはPC向けのサイトをCSSで表示を切り替えているだけなので、パソコンのブラウザからも簡単に閲覧が出来る。逆に言えば、ソースは基本的に丸見えになると思っていた方が良い。その状況を果たしてどのように理解しているのか分からないが、読みづらいコードやそもそも記述が間違ったコードを大量に書いて平気な顔をしてそれらを公開するのははっきり言って恥ずかしい

では、恥ずかしくない記述をするためにはどうすればいいのか。それは当然経験がモノを言う分野であり、回数を重ねる毎に磨かれるセンスによってどういった記述が見やすく、メンテナンス性の高いコードであるか分かるようになると思っている。このブログもそうだが、僕もまだまだ勉強途中なのでハッキリ言って他人のセンスをどうこう言う資格はないのだが、それでも過去に自分の書いたコードを見ると吐き気がする。たったの半年前のコードでさえも。

前項目で書いたが、これもなんでもかんでもスピードを必要以上に求めるが故に置き去りにされる能力であり、急かせば急かすほどその能力は身につかない。なぜなら締切りに追われてアウトプットを間に合わせることに必死過ぎて自分のコードがどう見えるのかなんて考える暇がないから。最終的にコードが書けるようになったとしても第三者が見ても分かるような「恥ずかしくない」コードを書けるようにはならないだろう。

スマートフォンだからと言ってなんでも表示出来るわけではない

スマートフォンは確かにPCサイトではあるが、PCサイトもPCサイトなりに考えなければならないことがいっぱいある

PCサイトなので画像の容量や動画のサイズは基本的に気にしなくて良い、と思っている人も多いようだが、ガラケーのような容量制限はないものの、ページ内にあるコンテンツが重ければ重いほど読み込み速度が変わってくる。コンテンツだけではない。CSSやJavascript、記述の書き方一つや二つによって読み込み速度が大幅に改善出来る場合もあれば悪化する場合もある。PC向けページをスマートフォン向けに表示を整えただけだと思っているのであれば、さすがにそれは正直考えが甘すぎると言わざるをえない。

読み込み速度はどのPCサイトでも必ず考えなければならない、非常に重要な要因である。当ブログもまだ遅い方ではあるものの、ページの最適化とデータベースのキャッシュ等で調整を続けていて、以前と比べると半分ぐらいの時間で読み込めるようになっている。スマートフォン向けだろうが所詮PCサイトなので、読み込み速度は死活問題である。画像が多ければ大きいほど、容量が重ければ重いほど読み込み速度に時間がかかるのはガラケーだろうとPCだろうと変わらないが、ガラケーは画像に依存しなければならないことが多いのに比べ、PCはCSSを好きなだけ活用できるので、調整のしようがいくらでもある。

まとめと今後について

では、どうすればいいのか、というところなのだが、「スマートフォンユーザーであること」を意識し、「新規ユーザーを獲得出来るようなサービスを作り」、じっくりとそれなりに時間をかけて一つのサービスを作り上げ、「作る楽しさ」と「書いていて恥ずかしくないコード」を書けるようにすればスマートフォンに最適化したウェブサービスを作ることが出来るのではないだろうか。

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更新日2011年11月07日
執筆者g.O.R.i
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