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iPadを授業に本格導入した公立小学校、実際どう?都内唯一のApple認定校の”リアル”を見てきた

世田谷区立駒繋小学校の4年間の実践から見えた「協働的な学び」の真実と子どもたちの変化

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児童へアドバイスを送る井上光子主幹教諭

iPadを授業に本格導入している小学校は、本当に機能しているのか?

三軒茶屋駅から徒歩圏内にある世田谷区立駒繋小学校は、都内唯一の公立小学校としてApple Distinguished Schoolに認定されている。今回、実際に同校を取材する機会をいただき、授業の現場を見学させてもらった。iPadを導入した授業の現実を詳しく見ていこう。

Apple Distinguished Schoolの授業風景

駒繋小学校の授業を見ていると、従来の「先生が教える、子どもが聞く」という一方通行の授業とは明らかに違う光景が見える。子どもたちは自分で課題を設定し、iPadを「学びの相棒」として使いながら、友達と協働しながら作品を作り上げている。

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3年生の様子。めちゃくちゃ楽しそう

例えば、6年生の国語では方言の学習で単に教科書を読むだけでなく、子どもたちが方言紹介動画を作成する。プロット図を使って構成を練り、実際に動画を撮影・編集することで、方言と共通語への理解を深めている。

社会の武将新聞作成では、班で分担し、個々が記事を書いた後、共有して「情報が正しいか、伝わるか」を確認し合う。LoiLoNote(ロイロノート)の提出箱を常時開けておくことで、リアルタイムで他者の意見を読む機会を設けている。

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教育現場の定番アプリ「ロイロノート」

算数の「線対称や点対称」の学習でも、知識を覚えた後、グループで「対称レポート」を作成し、身の回りから対称の例を探したり、ゲームを紹介したりと、勉強が得意な子も苦手な子も、それぞれの得意を持ち寄って協力している。

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資料のクオリティが異常に高い

「協働的な学び」で全員が学びの舞台に

井上光子主幹教諭が特に強調するのは「協働的な学び」の価値だ。駒繋小学校が目指すのは「全員が学びの舞台に!全員が学びの主役に!」という理念で、これは単なるスローガンではなく、実際の授業で体現されている。

公立小学校には多様な背景や能力を持つ子どもたちが集まるため、従来の一斉授業では一部の子どもしか活躍できない問題があった。しかし、iPadを活用したクリエイティブな学びでは、すべての子どもが自分の得意を活かせる場面が用意されている。

「協働的な学び」の実践例として、休み時間の過ごし方を調査した棒グラフ作成がある。子どもたちは自分たちでアンケートを取り、Numbersアプリを使って表にまとめ、棒グラフを作成して視覚的に読み取った結果をポスターに表現する。算数が苦手な子も、データ収集が得意な子はアンケートを担当し、絵が得意な子はポスターデザインを担当するなど、共同作業で学びを深めている。地図記号学習でも、単に暗記するだけでなく、Keynoteのリンクボタンを使ったクイズを作成し、「覚える」から「人に伝える」への転換を図っている。

見学させてもらった6年生の音楽の授業も印象的だった。6年生となれば思春期の女子とそれについていけない男子で「男子VS女子」という見えない戦争が繰り広げられるギスギスとした空間かと思い込んでいたが、少なくともこのクラスは平和で男女ともに同じiPadに向かいながら積極的に作曲をしていた。とてもいい雰囲気で楽しそうだった。

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出来上がった楽曲を楽しむ6年生達

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このチームの楽曲を聴かせてもらったが、普通に良い曲で驚いた

1つのグループが制作していた楽曲を聴かせてもらったが、完成度も高く、メロディとしても良かった。作曲という、一見「こんなの自分じゃできないよ」という風に片付けられそうな内容を小学校で取り組めるのはとても良いと思った。

4年間の段階的な発展と子どもたちの変化

「授業って成り立ってるの?遊んでたりしないの?」という疑問に対する答えは、駒繋小学校の4年間の取り組みの歴史を見ると明確になる。

2021年の導入期から手探りで始まり、2022年には月1回以上の研修でスキルアップを図った。2023年には熊本市への視察で「学びそのものが変わること」を認識し、Apple Distinguished School認定を受けた。現在の2024年では「学年での自走」が確立されており、研修に頼らず各学年で実践を積み重ねている。

iPadを持っていると授業関係なく勝手に遊んでしまうのではないかという懸念があるが、実際は違う。児童らは授業内容によっては自ら教室の外に出て作業をしたいと申し出て、やりたいと申し出た内容をしっかりこなしてから戻ってくるそうだ。遊んでしまって戻ってこない、という児童はいないというのは興味深い。

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マグネットカバーを活用し、廊下でiPadを吊るして共有

そして児童が「オープンになった」ということは大きな変化だという。最初こそは「プレゼンしたい人」と言っても反応はなかったが、いつしか「俺やるよ」という感じで児童が積極的に参加する姿も見られたと言っていた。

現実的な課題と解決への取り組み

iPadを全面導入した授業にも、いくつかの課題がある。まず、すべての単元で深い学びを実現するには時間的に難しいという問題に直面している。現在は「教科横断」の視点を取り入れ、カリキュラムを再構築していく必要があると考えている。

また、技術的な制約もある。現在の端末は32GBで、GarageBandなどの重いアプリは使用後にアンインストールを繰り返している状況だ。しかし、2025年9月にはiPad(A16)に入れ替わる予定となっており、ベースのストレージ容量が128GBになる。容量問題が解消されることが期待される。

iPadを児童が持つことによる特有の問題もある。もちろんiPadを扱うことによって気を付けるべきことを教える授業も設けている。とはいえ、相手は小学生。問題ある画像を送ったり、落書きをしたりなどは起きている。

ただし、それらは良くも悪くも先生に、そして仲間に瞬時に「共有される」。先生としても、問題がある画像を送った際にはクラス全員が見えるように画面に映し出し、「これを授業中に送るのはどうでしょうか」と呼びかけることもあったという。児童は反省せざるを得なくなる。

学力向上よりも大切な「学びの質」の変化

学力の向上や低下については、現時点では見極められていない。上がっても無ければ下がっても無い。ただし、確実に言えることとしては「誰もが授業が楽しそうに受けている」ということだ。iPadを使うことによって子ども達が良い意味で解放されて、授業に前向きに取り込めているような印象を受けた。取り組み方の程度の違いは児童によって異なることは大前提のもの、参加者誰しもが「私、作曲したことあるよ」という思いを持てるようになることは素晴らしいことだ。

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真剣に楽曲作りに励む6年生達

駒繋小学校が実践する「クリエイティブな学び」は、「ひらめく」→「つながる」→「つくりだす」→「つたえる」→「ふりかえる」→「みつける」→「チャレンジ」というサイクルを通じて、子どもたちが非線形的に学びを深めていく仕組みだ。これにより、自分の得意を自覚し、友だちの得意を認める環境が生まれ、「みんなで学ぶと大きな課題も解決できる」という実感を子どもたちが得ている。

駒繋小学校の成功は、一朝一夕で成し遂げられたものではない。4年間かけて段階的に発展させてきた取り組みだ。重要なのは、最初から完璧を求めず、「手探り・種まき」から始めて、徐々に「授業改善プロジェクト」へと発展させていくことだ。子どもたちにとっては、学力向上だけでなく、協調性や人に寄り添う力といった非認知能力も育まれる。これは、将来社会で活躍するために必要な「人間力」の基礎となる。

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互いを助け合う3年生達

駒繋小学校の取り組みは、「iPadを授業に全力で取り入れている小学校」の一つの理想形を示している。単なるデジタル化ではなく、子どもたちの「学びの質」を根本から変える教育改革が、ここで着実に進んでいる。

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更新日2025年09月27日
執筆者g.O.R.i
コメント(2件)

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  1. TakSak(コメントID:706059)

    あらーゴリさん、そんなところへ行かれたんですね!熱心ですね、流石です。
    俺のとこにも来ますか?笑
    iPadじゃないけどね笑

  2. TakSak(コメントID:706058)

    あらーゴリさん、そんなところへ行かれたんですね!
    俺のとこにも来ますか?笑
    iPadじゃないけどね笑

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