Apple、TSMCで”優先枠”喪失か。AI企業との争奪戦で製品値上げの恐れも
NvidiaやAMDが製造能力を圧迫、ガラスクロス・メモリに続く新たなサプライチェーン危機
先日報じたAppleのガラスクロス不足やSamsungへのメモリ依存に続き、さらに深刻な問題が浮上している。Appleは世界最大の半導体製造会社TSMCにおいて、もはや優先的なチップ供給を保証されなくなったのだ。AI需要の急拡大により、NvidiaやAMDといったAI企業との直接競争に直面しており、iPhoneやMacの”心臓部”確保が困難になりつつある。
半導体アナリストTim Culpan氏がブログ「Culpium」で公開した詳細レポートによると、過去10年以上にわたってAppleのチップがTSMCの拡大戦略の中心的存在だった時代は終わりを告げたという。Appleは現在、TSMCが保有する20以上の製造工場全体で、自社チップ設計の優先順位が自動的に保証されなくなっている状況だ。
TSMCって何?なぜこれほど重要なのか
最近はチップ関連のニュースが多く、「ちょっとよく分からないのだけど聞きづらい」という人もいるような気がするので、まずは基本的な話から。
TSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Co.)は、iPhoneやMacの”脳みそ”となるチップを実際に製造している会社だ。Appleは自社でチップの設計はするが、実際に作るのはTSMCに委託している。
これは建築に例えるなら、Appleが設計図を描き、TSMCがそれを実際に建てる工務店のようなものだ。しかもTSMCは世界で最も先進的なチップを作れる数少ない企業の1つで、代替は極めて困難。まさに”替えが効かない”存在なのだ。
“VIP待遇”が終わった衝撃の通告
Appleはこれまで、TSMCにとって特別な存在だった。iPhoneの販売台数は膨大で、毎年数億個のチップが必要になる。TSMCはAppleからの安定した大量発注を見込んで工場を拡張してきた経緯があり、Appleは事実上の”VIP顧客”として優先的に最先端チップの製造枠を確保できていた。
ところが2025年8月、TSMCのCC Wei CEOがAppleのCupertino本社を訪問し、衝撃的な通告をした。「数年で最大規模の値上げ」を受け入れる必要があること、そしてもはや製造能力への優先アクセスは保証できないことを伝えたという。
Tim CookとApple幹部陣はこのニュースを受け入れざるを得なかった。AIブームでゲームのルールが変わり、NvidiaやAMDといったAI企業がTSMCに殺到し、Appleと同じ製造枠を奪い合う状況になっていたからだ。
数字が物語る「力関係の逆転」
状況の深刻さは、具体的な数字を見ると一目瞭然だ。2025年、Nvidiaの売上は62%も急成長した一方、Appleの製品売上の伸びはわずか3.6%にとどまっている。
TSMCの売上構成を見ても、AI向けを含むハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)分野は48%増だったのに対し、スマートフォン向けはわずか11%増という状況だ。AppleがTSMCの売上成長の主要ドライバーではなくなったのは約5年前で、今やその差はさらに広がっている。
つまりAppleにとって、TSMCは”自分たちのために優先的に動いてくれる工場”ではなく、”他の大手企業と製造枠を奪い合う場所”に変わってしまった。これは……Appleにとって状況としては良くない。
AI向けチップが”場所を食い尽くす”
問題をさらに複雑にしているのが、AI向けチップの製造における”場所の取り方”だ。チップは「ウエハー」と呼ばれる円盤状の素材から切り出されるのだが、AI向けチップは1個あたりの面積がスマホ用チップの何倍も大きい。
イメージしやすく言うと、1枚のピザ生地(ウエハー)から、スマホ用なら小さなピザが100個作れるところ、AI用だと大きなピザが20個しか作れない、みたいな感じだ。AI企業の注文数が少なくても、製造能力の大部分を食い尽くしてしまうわけだ。
Nvidiaが売上でAppleを逆転した可能性
レポートによると、Nvidiaは2025年の少なくとも1〜2四半期において、売上高ベースでAppleを抜いてTSMC最大の顧客になった可能性が高いという。正確な顧客ランキングは明らかになっていないが、2026年にはほぼ確実にNvidiaがトップになるとの見方が示されている。
さらに注目すべきは、TSMCの収益性だ。2025年12月期の粗利率は驚異的な62.3%に達している。これはソフトウェア企業やチップ設計専門企業に匹敵する水準で、TSMCがいかに強力な価格決定権を持っているかを示している。
僕たちユーザーへの影響は?
では、これが僕たちユーザーにどう影響するのか。最も懸念されるのはチップコストの上昇だ。AI企業は優先的に製造してもらうため、TSMCにプレミアム価格を支払う意欲がある。Appleも同じ土俵で競争するなら、高い価格を払わざるを得ない。
レポートでは、Appleが製品出荷に必要な十分なチップを確保できなくなる可能性は低いとしている。ただし最先端チップにおける持続的な価格圧力は、今後数年間にわたって製品のマージン(利益率)や価格戦略に影響を与える可能性があると指摘されている。
要するに、iPhoneやMacが今後さらに値上がりする可能性がある、ということだ。あるいはAppleが利益率を削って価格を維持する場合、製品開発への投資が減る可能性も考えられる。
“材料不足の時代”が本格化
今回のTSMC問題は、先日報じたガラスクロス不足やSamsungへのメモリ依存と合わせて考えると、より深刻な構図が見えてくる。Appleはチップの”設計図”、”材料”、”製造”のあらゆる段階で供給制約に直面している状況だ。
ガラスクロスでは日東紡績ほぼ1社独占、メモリではSamsungへの依存度70%、そして今回のTSMCでもAI企業との競合。報じられている情報がいずれも事実だとすれば、現状、あらゆるサプライチェーンで”綱渡り”を強いられているのが現状だ。
2028年に状況改善の可能性も
ただし、長期的には希望もある。TSMCは2028年に「A14」と呼ばれる次世代プロセスノードの量産を開始する予定で、この技術はモバイル向けとAI向けの両方に最適化されている。つまり、Appleにとってより有利な条件でチップ製造が可能になる可能性があるのだ。
さらにAppleには「安定性」という強みがある。Nvidiaの製品ラインは主にAI向けチップに集中しているのに対し、Appleは12以上のTSMC工場で多様な製品を製造している。AIブームがいずれ減速した際、TSMCにとってAppleの安定した需要は再び重要になるはずだ。
今後2〜3年は厳しい時代が続く
とはいえ、業界アナリストの予測では、この供給逼迫は少なくとも2028年頃まで続くとされている。AI需要は今後も拡大が見込まれており、短期的な解決は期待できない。
Appleは代替サプライヤーの確保や、低グレード材料の採用検討など、あらゆる手を尽くしているが、どれも一朝一夕には実現しない。消費者としては、今後の新製品が値上げされたり、発売が遅れたり、供給が不安定になったりする可能性を覚悟しておく必要がありそうだ。
実際、僕自身も年始にこの状況を見越してMacBook Proを”ほぼ全盛り”で購入してしまった。「今買わないと、今後さらに高くなる」という危機感が、92万円超えの決断を後押ししたわけだが、それが杞憂に終わらなさそうな雲行きになってきている。
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(Source: Culpium via MacRumors)
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