【LIGブログ×サイボウズ式】成功している企業メディアが語る!「PV至上主義を捨て、ブランディングへ」
1月18日(日)、「Web Creator Conference(LIG × サイボウズ / ぱくたそ / ファンタラクティブ / nanapi )」というイベントが開催された。
イベントの内容については、主催者である「隠居系男子」を運営する株式会社Waseiの鳥井弘文さんは以下のように説明している。
コンテンツ製作者は、エンジニア・デザイナーからシステムについて学べる場に。エンジニア・デザイナーはコンテンツ製作者から読まれるコンテンツの作り方を学べる場に。
コンテンツ制作者とデザイナー・エンジニアが一箇所に集まり、互いの強みと弱みを相互補完し合うようなイベント、それがWeb Creator Conferenceです。
via 「コンテンツとシステムが交わる場」をつくりたい。イベント「Web Creator Conference」を開催します! | 隠居系男子
イベントのトリを飾った「LIGブログ」編集長朽木誠一郎さんと「サイボウズ式」編集長藤村能光さんによる対談「PV至上主義を捨て、ブランディングへ 〜LIGブログとサイボウズ式が目指す企業メディアの新しい形〜」は企業メディアを想定した内容ではあったものの、個人メディアやブロガーでも活かすことができるであろうノウハウが詰まっていたので、メモを取ってきた。
その時僕が必死にメモを取っている様子はフリー写真素材サービス「PAKUTASO」を運営するすしぱくさんのブログに公開されている。僕が真剣にキーボードを叩いている姿に興味がある物好きは以下からどうぞ。
以下に取ったメモをまとめたので、企業メディアの中の人やウェブメディア運営者、ブロガーなどは参考にどうぞ!
LIGブログ・サイボウズ式の紹介
対談イベント「PV至上主義を捨て、ブランディングへ 〜LIGブログとサイボウズ式が目指す企業メディアの新しい形〜」は以下の項目について話が進められた。
- コンテンツの特徴は?
- PVは重視する?
- SEOは重視する?ソーシャルは?
- ブランディングとは?
- ライティング・編集のポイントとは?
内容を紹介する前にそれぞれの企業メディアを紹介する!
LIGブログとは
「LIGブログ」は株式会社LIGの企業メディア。元々はLIGの認知を高めるために始められたブログである。
LIGブログは「おもしろ記事が多い」という印象を持っている人も多いかもしれない。実際に先日IT業界ではない友人と飲んだ時に「エルアイジーってマジで面白いな」と言われた。それ、読み方は「リグ」だ。
恐らく多くの人がLIGブログのことを知ったきっかけとなっているのは以下の記事ではないだろうか。
実はLIGブログはおもしろコンテンツが全体の20%しかない。どちらかと言うと真面目系コンテンツの方が多く、80%占めているのだ。これは後ほど紹介するSEOの話に通じる。
また、LIGブログは社員全員が参加している他、外部ライターなども関わっていることが特徴。デザイナーなども参加し、1つの記事に貢献していることも今のLIGブログには欠かせない要素だ。
サイボウズ式とは
「サイボウズ式」とはサイボウズ株式会社が運営する企業メディア。サブタイトルに「新しい価値を生み出すチーム」のための、コラボレーションとITの情報サイトとあるように、チームに関する情報を発信することをミッションとしている。
最近はブロガーとも連携し、チームに関するあるあるやチームにおける問題を解決するコンテンツを発信。印象的だったのは「サイボウズからにじみ出てくるものをアウトプットしたい」という言葉。その結果「サイボウズっていい感じだね」という印象を持ってもらうことを目指している。
ZOZOTOWNと連携して社長をコンテンツ化したり、東洋経済オンラインに働き方に関するコンテンツを提供するなど、幅広いメディアに露出している。
他メディアへの転載について
LIGブログとサイボウズ式。どちらも企業メディアではあるが、アウトプットしたコンテンツの転載に関する考え方が異なっていた。
LIG:転載は基本的に控える方針
LIGは基本的に他メディアへの転載はしていない。言われてみればLIGブログの記事をLIGブログ以外で見かけたことはない。
現在LIGは2,500〜3,000本の記事があり、コンテンツがストックされてきたことで様々なキーワードで上位表示することができるようになってきた。
ユーザー層を広げるという意味では確かに他メディアに転載するというのは1つの戦略ではあるが、LIGはSEOを重視する運営方法を指針としている。困ったことがあり、Googleを検索した人を助ける過程でユーザー層を広げることを重要視しているようだ。
サイボウズ式:幅広いメディアに転載許可を出している
一方、サイボウズ式は幅広いメディアに転載許可を出している。作ったコンテンツをより多くの人に届けるということを第一に置いているため、どのような場所であれ、サイボウズ式が提供したコンテンツに接してくれることを最優先しているそうだ。
ページビュー(PV)は重視するべきか、否か
転載について180度違う回答が帰ってきた両者だが、PVについての考えもやはり異なっていた。
LIG:PVは重視する
「心に残る」「長く読まれる」指標としてのPVを意識している、と語る朽木さん。LIGブログはPVは重視しているが、それはあくまでも1つの指標として追っているだけで、今回のタイトルにもあるPV至上主義についても「PVだけを追うことは良くない」とコメント。
PV追求して釣ったり煽ったりパクったりするのはWebメディア全体の利益を損なうから絶対にダメ。でもメディア=媒体である以上どれだけ伝わったかは大切な指標だと思う。あとはどう伝わったかをいつでも自省しながら運営していきたい。
— 朽木誠一郎 (@amanojerk) 2015, 1月 10
ただ、PVはあくまでも重視する姿勢を持つLIG。だとすれば、当然検索からの流入も需要になってくるため、転載を許可しないということも繋がる。
「ウェブメディア価値を担う一員として、業界全体を盛り上げたい」とクールに熱く語っていた。
サイボウズ式:PVを指標として取っていない
一方、サイボウズ式編集長の藤村さんは「PVを指標として取っていない」をキッパリ。コンテンツを公開後、その結果としてPVを見るが、PV数を目標にコンテンツを制作しないそうだ。
朽木さんと同じく「PVだけを取るためのコンテンツが多いのは良くない」と指摘。コンテンツによって何かしらのきっかけを作る、心に爪痕を残す、爪痕を立てられるようなコンテンツを作りたいと負けじと熱く語っていた。
運営方針上PVを追う必要がなく、1人よりも多くの人にコンテンツに触れてもらいたい、と言う指針があるからこそ、他メディアへの転載を歓迎するのも納得だ。
PV以外に追っている目標数値について
PVは大事だが、PVがすべてではない。最近よく言われていることだが、ではPV至上主義からの脱却するにあたってLIGブログとサイボウズ式はどのような数値を追っているのだろうか。
LIG:お問い合わせの数、認知度向上
冒頭でも紹介した通り、LIGブログはLIGの認知を高めるために始められたブログ。よって、ゴールとしては企業から問い合わせをもらうことを1つの指標としているそうだ。
LIGのファンが増えているか、認知度が向上しているかも追っているとのこと。
サイボウズ式:ソーシャルの声、コメント数
サイボウズ式はソーシャルの声を非常に重要視している。TwitterやFacebookでどのような反応をしているかをしっかりとチェックしている、と藤村さん。
「極論を言えば、1万PVで10コメントが得られた記事よりも、1,000PVでも100コメントを得られた記事の方が良いと思っている」と言う例が非常に分かりやすかった。
SEOは重視する?ソーシャルとどっちが大事?
今やウェブメディアへの流入元として欠かせないのはSEOとソーシャルメディア。企業メディアとしてこれらをどのようなバランスで見ているのだろうか。
LIG:検索を重要視、困っている人を助けたい
LIGの場合、どちらかというとSEOに比重を置いているとのこと。真面目な記事が80%も占めることを考えればソーシャルバズを狙うよりも検索流入を狙っていることは明白だ。
朽木さん曰く、SEO対策をしっかり施すことによって何か困っている人に対して困っている人を助けることができ、ポジティブな感情を与えることができる。その結果、ポジティブなことを提供してくれるメディア、として認識してもらいたいとまたしても熱く語っていた。
LIGブログのSEO対策は本気だ。最近はキーワードツールなどを利用してタイトルを考えているとのこと。ガチガチの対策を練っていることが分かった。
ただ検索を重要視しているLIGブログにとっておもしろコンテンツは一体どういう位置づけなのか、気になるところ。20%しか占めないのにも関わらずインパクトの大きいおもしろコンテンツはユーザー層を広げるために書いているとのこと。言ってしまえば、LIGが普段書いている真面目なコンテンツを必要としていない人がLIGのことを知るきっかけにも成り得る訳だ。
サイボウズ式:自由に書き、課題提起に重きを置く
PV数を重要視せず、転載も積極的に行っているサイボウズ式は課題提起に重きを置いている。SEOに関するキーワード設計などは一切やっていないそうだ。
具体的には主要テーマである働き方、チームワーク、多様性などに関する企画を企画会議で社員が発案。個人の「面白い」が発端となり、読者に伝わるコンテンツになるそうだ。
「自由にやっているだけ」と語っていた藤村さん。自分たちが一番やりたいこと、一番やっていて楽しいということをやることによって楽しいコンテンツ運営をすることができるそうだ。気軽に楽しくコンテンツ作りをすることによって社内外問わず「楽しそう」と思ってもらえるそうだ。
ところで、認知度も高く話題性もあるサイボウズ式だが、なんと月間のPV数は40万PV程度、平均は20万PV弱とのことだ。これは他メディアへの転載が功を奏しているのか、PV数に対して認知度は非常に高い。
質疑応答:PV至上主義と記事広告について
ここで僕が個人的に気になっていたことを質問させてもらった。
ウェブメディア界隈では最近「PV至上主義から脱却するべきだ」「PVばかり追っていても意味がない」という議論がなされているが、ハッキリ言ってこれはウェブメディアに関わっている人を中心に注目されているトピックだ。一歩外に出てしまえればそんな議論が行われていることすら知らない人の方が多い。
よって、記事広告や純広告の依頼を受ける場合、一定のPVを求めるクライアントは多い。内部では脱PV至上主義なのに、外部からはPVを求める依頼が来る。この状況についてどうするべきなのか、聞いてみた。
サイボウズ式はそもそも記事広告は受け付けていないとのことだが、LIGブログは記事広告も純広告もよく見かける。朽木さんは提示されたPV数はしっかりと追求しつつも、同時に広告でも心に残るコンテンツをしっかりと追い求めるようにしている、と語っていた。
印象的だったのはテレビCMの例。テレビCMも言ってしまえばただの広告なのだが、中でも人の感情を揺さぶるCMも世の中には多数存在する。ネットの広告は毛嫌いされる傾向が強いが、記事広告にせよ、純広告にせよ、同じく心に残るコンテンツを追求したいと語っていた。
ブランディングにおける戦略と考え方
PV至上主義から脱却し、ブランディングへ。2つの企業メディアにおけるブランディング戦略について熱い議論が交わされた。
LIG:個人を売り出し、ファン作りへ
LIGブログは個人を売り出すことに注力している。1人ひとりの社員を立て、面白いことを企画することによって「何か面白いことをやっている企業だなあ」という印象を与えることができる。
その結果、LIGブログにファンが増える。ファンが増えることによって、追っている指標であるお問い合わせの数に結びつける可能性がある。数ある選択肢がある制作会社の中でもLIGを選ぶ理由になりえるのだ。
また、目立つことによって優良な人材も集まるきっかけにもなる。非常に良いサイクルを生み出すことができているようだ。
サイボウズ式:好きではなかった人もファンに
サイボウズ式も同じくファンを作ることを重視している。サイボウズを知るきっかけとなり、好きになってもらえることをブランディングにおいて大事にしているそうだ。
興味深いのは社外だけではなく、社内においても効果があったとのこと。例として、サイボウズ式がインターンに応募するきっかけだったというインターン生もいたそうだ。こちらも優良な人材を集めるために役立っているようだ。
実践しているライティングと編集のポイント
最後の議題はライティングと編集のポイント。多くの人を魅了する記事を書く上でどのような心掛けているのだろうか。
LIG:記事ごとのペルソナ設定が大事
朽木さんは「誰に何を伝えたいのかが大事」とコメント。記事ごとにペルソナを設定すると良いそうだ。
これを怠るとひとりよがりな記事に成りかねない。そしてその状況が続くともはや何のためにメディアを運営しているのか分からなくなってしまう。
ただ、同時に「熱意を持って書いたものは大事」と力強く語る朽木さん。何よりもその想いが伝わり、コンテンツとして面白いからだ。
「顔文字を使いたいなら使えばいい。」
朽木さん自身の過去の経験から、今のLIGブログは可能な限りそのような”想い”は潰さないようにしている。
サイボウズ式:「起承転結」ではない、「転起承結」だ
藤村さんは記事を作る時にに「起承転結」ではなく、「転起承結」にするべきだと語っていた。これは日本人の2人に1がスマートフォンを持つことによって、興味関心が無いコンテンツはすぐにスルーされる時代になってきたことから考案する記事の書き方だ。
まずは面白いところから持っていくようにすることが大事。せっかく作ったコンテンツを読んでもらえなかったら全く意味が無い。そのためにもタイトルや書き出し、アイキャッチ画像などに「面白い」を持ってきてユーザーの興味関心を引くことを重要視していると語っていた。
サイボウズ式はとにかく「伝わること」を何よりも重要視している印象を受けた。
なお、両者とも写真やアイキャッチ画像についてクオリティを追求することについても一致。「綺麗だな」と思ってもらうこと、ブランディングとしてこだわって撮っているとのこと。サイボウズ式はプロのカメラマンやプロのイラストレーターに委託、LIGブログは社員が高い一眼レフカメラを持ち歩いて撮影したり、社内のデザイナーがアイキャッチ画像を制作している。
まとめ:ファンに愛されること、熱意を持って作ること
このイベントを僕なりに一言でまとめるとすれば、ファンに愛されること、そして熱意を持ってコンテンツを制作することではないかと思う。そしてこれは企業メディアに関わらず、個人メディアでも全く同じことが言えるだろう。
熱意を持ってコンテンツを制作し、アウトプットし、読者に何かしらの価値を提供した結果、読者に愛される。企業メディアだろうが、個人メディアだろうが、やるべきことは変わらない。
朽木さんの「ウェブメディア価値を担う一員として、業界全体を盛り上げたい」、藤村さんの「心に爪痕を残す、爪痕を立てられるようなコンテンツを作りたい」という想いと共に、僕も広いウェブメディア界隈の一端を担う者として1人でも多くの人に何かしらの価値やきっかけを提供できるように精進したいと思った。
素敵なイベントでした!主催者、登壇者の皆様、お疲れ様でした!