28人全員の声をAI再現、Apple Fitness+担当者が明かした”妥協できない理由”
字幕だけでは不十分だった——トレーナーの声のトーンと精神まで守る途方もない投資と、日本市場への本気度
ついにApple Fitness+が日本で利用できるようになった。2021年にサービスを開始してから約5年、日本のユーザーは待ちに待った瞬間だ。
Appleは1月21日、フィットネスとウェルネスサービス「Apple Fitness+」の日本での提供を発表。これに合わせて都内でローンチイベントが開催され、米国から来日したフィットネステクノロジー担当シニアディレクターのJulz Arney(ジュールズ・アーニー)氏、そしてトレーナーのKim Ngo(キム・ンゴー)氏とBrian Cochrane(ブライアン・コクレイン)氏に独占インタビューを実施した。
本記事では、日本版Apple Fitness+の最大の特徴であるAI吹き替えへのこだわりと、Appleが5年間で学んだフィットネスサービスの本質について、担当者との対話を通じて深掘りしていく。
なぜ字幕ではなく、AI吹き替えなのか
日本版Apple Fitness+の最大の特徴は、28人のトレーナー全員の実際の声を基にしたデジタル翻訳音声を採用している点だ。字幕で対応するという選択肢もあったはずだが、Appleはあえて大規模な技術投資を行った。
妥協できなかった「つながり」
なぜ字幕ではなく、ここまでAI吹き替えにこだわったのか。この質問に対し、Arney氏は即座に答えてくれた。
Fitness+の最大の使命は、世界中のできるだけ多くの人々にフィットネスとウェルネスを届けることだという。日本へのローンチにあたり、デジタルダビングは絶対に必要だとわかっていたそうだ。しかし、ただのデジタルダビングではなく、トレーナーの声のトーンと精神を保つ必要があったとArney氏は強調する。
「トレーナーとユーザーの間には素晴らしいつながりがあります。彼らは時にユーザーの1日で最も楽しい瞬間を導く存在です。私たちは、Apple Fitness+の最高の形を日本のユーザーに届けたかったのです」
この言葉から、AppleがFitness+を単なるワークアウト動画配信サービスではなく、トレーナーとユーザーの「つながり」を重視したサービスとして設計していることが伝わってくる。28人全員の声を再現するという途方もない技術投資は、この「つながり」を守るためのものだったのだ。
日本市場をどう攻略するのか
グローバルサービスとしての多様性
競合ひしめくフィットネスコンテンツ市場において、Apple Fitness+はどのような差別化を図っているのか。この質問に対し、Arney氏はシンプルさとパーソナライゼーションを強調した。
Fitness+には12種類のアクティビティがあるが、好きなものに直接アクセスできる。トレーナー、時間、音楽、さらには鍛えたい身体の部位でフィルタリングして、求めているものを簡単に見つけられるという設計思想だ。
日本市場特有のコミュニティ重視の文化や、地元トレーナーへの親しみについても話を聞いた。Arney氏の答えは興味深かった。
「私たちはグローバルサービスだが、28人のトレーナーは異なる背景、専門性、年齢、ライフステージを代表している。日本のユーザーもつながれる誰かを見つけられるはずだ」とArney氏は語る。そして、これは始まりに過ぎないとも。
デジタルダビングによって、ユーザーの言語で話しかけることができる点が、画面とユーザーの間の障壁を取り除く鍵になるという。
確かにこれは大いに理解できる。日本人は英語に対して少し苦手意識を持っている人が多い。僕自身はアメリカで育ったからそこまでではないが、それでもトレーナーが日本語で話しかけてくれるという体験は、想像以上に心理的なハードルを下げてくれるはずだ。
既存のトレーナーを置き換えるものではない
重要なのは、Fitness+は既存のローカルトレーナーを置き換えるものではないという点だ。
私たちはフィットネスジャーニーに付加価値を提供したいのだとArney氏は語る。新しい親になった時、怪我をしている時、仕事で遅くなってローカルトレーナーとのセッションに行けない時。そんな時にFitness+がいる。10分、20分でも、家でワークアウトを完了できるのだ。
この発言を聞いて、僕は思わず「そう、それ!」と心の中で叫んだ。仕事で遅くなって、ジムに行けない。でも10分、20分ならiPhoneで今すぐできる。妥協する必要がない。これはAppleが日本市場のフィットネス文化を理解した上で、既存の選択肢を補完する存在としてFitness+を位置付けている証拠だ。
日本の住宅事情への徹底的な配慮
そして、イベントで最も印象に残ったのが、日本の住宅事情を考慮した「狭いスペースでできるワークアウト」プレイリストの存在だ。
個人的にApple Fitness+がローンチした時点から気になっていたことだ。日本の住宅事情では、広いリビングで大きな音を立ててワークアウトするなんて、多くの人にとって現実的ではない。
各ワークアウトには「モディファイア」と呼ばれるサポートトレーナーが登場し、可動域を小さくした動きや低負荷のバリエーションを実演してくれる。そして驚くべきことに、下の階の住人を怒らせないような動きのバリエーションまで実演してくれるという。
これには本気で驚いた。Appleが日本の住宅事情をここまで理解しているとは思わなかったのだ。しかも、YOASOBIの楽曲をフィーチャーした「アーティストスポットライト」シリーズや、渡辺直美、山下智久が登場する「ウォーキングの時間」など、日本向けの特別コンテンツまで用意されている。
個人的には、ピラティスに興味がある。これまで一度もやったことがないのだが、日本では「女性向け」というイメージが強くて、なかなか手を出しづらかった。でもFitness+なら、家で誰にも見られずに試せる。Arney氏が紹介してくれたトレーナーのZero氏は元NFL選手だそうで、ピラティスはアスリートにも最適だと語っていた。これは試してみる価値がありそうだ。
5年間で学んだ「指標」の力
ユーザーを引き込む画面上の数字
2021年のローンチから5年を経て、Apple Fitness+が学んだ最大の教訓について尋ねると、Arney氏は即座に答えた。
ローンチから学んだのは、画面上に表示される指標こそが、人々をワークアウトに引き込み、次のワークアウトに戻ってこさせるものだということだという。
Apple Watchを装着してFitness+のワークアウトを行うと、心拍数や消費カロリーがリアルタイムで表示される。他のユーザーと比較した運動強度が「カロリー消費バー」として表示される機能もある。この指標が、ユーザーのモチベーション維持に極めて重要だという。
AirPods Pro 3との完璧なタイミング
さらにAirPods Pro 3の心拍数センシング機能について、Arney氏は興奮気味に語った。
AirPods Pro 3の心拍数センシング機能は、完璧なタイミングでハードウェアをフィットネスエコシステムに追加できた。デジタルダビングと合わせて、日本にやってくるには最高のタイミングだという。
Apple Watchがなくても、iPhoneだけで始められる柔軟性も強調された。iPhoneだけで始められる。Apple Watchは不要、AirPodsも不要だ。その後、AirPods Pro 3でレベルアップし、Apple Watchを追加できる。ユーザーが持っているハードウェアに合わせて対応しつつ、すべてを揃えれば、カロリー消費バー、心拍数センシングなど、すべての指標が利用できるという。
ハードウェアとの段階的な統合という設計思想は、いかにもAppleらしい。そして僕のような「いずれApple TVを買って、大画面でワークアウトするかも」と考えている人間にとっては、デバイスをまたいでシームレスに体験できるのは魅力的だ。
「つながり」を守るための投資
約1時間のインタビューを通じて感じたのは、Appleがフィットネスサービスを単なる動画配信として捉えていないということだ。
トレーナーの声のトーンや精神性を守ることにこだわり、画面上の指標でユーザーのモチベーションを維持し、ハードウェアとの統合で体験を向上させる。すべては「ユーザーとトレーナーのつながり」を守るためだ。
日本市場への参入が5年遅れたことは事実だが、デジタル翻訳音声技術とAirPods Pro 3の心拍数センシング機能が揃った今こそが、ベストなタイミングだったのかもしれない。
個人的には、日本の住宅事情を考慮した「狭いスペースでできるワークアウト」プレイリストの存在に、Appleの本気度を感じた。そして何より、これまで手を出しづらかったピラティスに挑戦できる機会を得られたことが嬉しい。
Apple Fitness+は月額980円、年額7,800円で、最大5人の家族と共有可能。新規ユーザーには1カ月の無料トライアル、対象のApple製品購入者には3カ月の無料トライアルが提供される。利用にはiOS 16.1以降を搭載したiPhone 8以降が必要だ。
これから日本のユーザーがどのようにFitness+を受け入れていくのか、非常に楽しみだ。
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