Apple、今まさに米国製チップへの移行を進めている。6000億ドル投資の「今」
ウェハー製造、TSMCアリゾナ工場(総工費1650億ドル)、Mac miniの組み立てまで——現地取材で明らかになった現状

Appleが今後4年間で米国に6000億ドル(約90兆円)を投資すると発表した一方で、その「メイド・イン・USA」計画の現状は想像以上に厳しい。Apple、米国投資を6000億ドルに拡大 新製造プログラムで45万人雇用を支援でも詳しく取り上げたが、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が防塵服に身を包んだ記者を米国南西部の工場群に送り込み、Appleのサプライチェーンの最前線をリポートした。
iPhoneには30個以上のチップが搭載されており、その大部分——特に最先端のもの——は現在も台湾で製造されている。中国との緊張の高まりや自然災害リスクを背景に、サプライチェーンを米国内に回帰させる動きが加速しているが、果たして「製造大国・米国」の復活はどこまで現実的なのか。
チップの原料となるウェハーをノースカロライナで製造
取材班が訪れたのは、昨年オープンしたGlobalWafersの施設だ。ノースカロライナ州で採れた世界最高純度のシリコン(砂)を約1370度で溶かし、巨大なインゴットを成形後にスライス。チップの土台となる「シリコンウェハー」を製造している。
現在は月産1万枚のペースで稼働し始めたばかりで、Appleのエンジニアが直接品質確認(クオリファイ)に立ち会っている段階だ。Appleにとって最も要求水準の高い顧客として、サプライヤーへのプレッシャーをかけ続けている構図が透けて見える。原材料の米国調達という意味では、レアアース磁石をMP Materialsから5億ドル投資で調達する取り組みも並行して進んでいる。
TSMCアリゾナ工場、総工費1650億ドルの壁
ウェハーにナノメートル単位の精度で回路を刻み込む工程を担うのが、世界最大の半導体メーカーであるTSMCだ。アリゾナ州に建設中の工場は1100エーカーの敷地を持つ米国最大級の建設プロジェクトで、総工費は1650億ドルに上る。
ただし、ここに「米国回帰」の最大のハードルがある。
- 生産規模の差:台湾の4施設が月産10万枚以上のウェハーを生産しているのに対し、アリゾナ工場が同等の規模に達するには10年以上かかると予測されている
- 技術の世代差:アリゾナで製造されているチップは、台湾製より「1世代古い」のが現状だ
- 設備の複雑さ:チップ製造にはオランダASML製の超高精度露光装置(1台あたり1億〜4億ドル)が必要であり、「工場を建てればすぐ作れる」というものではない
巨大な設備と莫大な投資があっても、積み上げられた技術力と製造ノウハウの差はそう簡単には埋まらない。トランプ大統領は「iPhoneは米国で製造可能」と主張しているが、専門家とApple幹部の見解は正反対というのが現実だ。
テキサスで始まるMac miniの組み立て
テキサス州ヒューストンにあるFoxconnの施設に初めてカメラが潜入し、現在Appleの最先端チップを搭載したAIサーバーなどが組み立てられている様子が明らかになった。年内にはMac miniの製造を一部米国に移管し、同施設での生産を拡大する予定という。
Appleは2013年にもテキサス州オースティンで「Mac Pro」の米国製造を開始した経緯があるが、需要が伸び悩んだという過去がある。現在AIモデルの実行などで人気を集めているMac miniだが、全世界での販売台数は年間100万台未満。年間約2億4000万台を売り上げるiPhoneと比べると、米国組み立ての規模はまだ非常に小さい。
「バケツの一滴」に過ぎない現実
取材した記者は、「この巨大な施設でさえ、Appleのグローバルな製造拠点全体から見れば『バケツの一滴』に過ぎない」と結論づけている。今回紹介された取り組みは、Appleが半導体サプライチェーンを米国に引き戻すための「ほんの最初の一歩」であり、アジアの圧倒的な製造規模と技術力に追いつくまでには、まだ途方もなく長い道のりが待っている。
なお、6000億ドル投資の発表に際してTim Cookはホワイトハウスでトランプ大統領と会談し、ケンタッキー州製の「完全米国製ガラス」を24金ベース台付きで贈呈するという一幕もあった。巨額の数字の裏側で、政治的な関係構築も着々と進んでいる。
最先端の半導体製造装置の内部や、徹底管理された工場の圧倒的なスケール感は、ぜひ以下の動画で実際に確認してみてほしい。
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