Apple Watch心電図機能で51歳エンジニアが心房細動を早期発見。手術成功までの全記録
健康診断では見つからなかった不整脈をウェアラブルデバイスが検知、循環器内科医が語る医療現場での評価と今後の可能性
Apple Watchの心電図機能が、51歳のエンジニア・鈴木政博さんの命を救った。運動記録を取るために購入したApple Watchが、健康診断でも見つからなかった心房細動を早期発見し、迅速な治療につながったのだ。
杏林大学医学部循環器内科学教室診療科長の副島京子先生によると、心房細動は不整脈の一種で心拍が不規則になっている状態を指す。65歳未満の約2%、65歳以上の9%以上が心房細動の症状を持つが、症状が出て病院で診断される人はごく一部で、大半の患者は自覚症状がないまま「氷山の一角」として水面下に潜んでいるという。
突然の通知が人生を変えた瞬間
鈴木さんは元々金属アレルギーで腕時計をあまりしないタイプだった。しかし2022年、サイクリング記録を取りたいという思いからApple Watch SEを購入した。
運命の日は2023年6月20日。自宅でテレワーク中に、普段とは明らかに違うバイブレーションと通知音でApple Watchが異常を知らせてきた。メッセージには「ぜひ医師に相談してください」という強い言葉が添えられており、鈴木さんは「『ぜひ』というのは相当強い言葉だな」と感じ、すぐに奥さんと相談して循環器内科を受診することを決めた。
病院の心電図で心房細動であることが確定診断されたが、リスク要因がなかったため一旦様子を見ることになった。しかし心配になった鈴木さんは、心電図アプリが使えるApple Watch Series 8をその場で購入した。
症状を捉えた決定的瞬間
そして2カ月後、サイクリング中に左胸がバクバクしていることに気づいた鈴木さん。Apple Watchを見ると心拍数が198という異常な数値を示していた。すぐに心電図アプリを起動して記録したところ、心房細動と表示された。
週末の出来事だったため、月曜朝一でクリニックを受診。Apple Watchで記録した3回分の心電図PDFを印刷して医師に見せたところ、病院の心電図でも心房細動が確認され、手術が決定した。
10月に心臓カテーテルアブレーション手術を受け、手術は成功。鈴木さんは「早期で見つかって逆にラッキーだった」と振り返る。注目すべきは、健康診断では全く問題がなく、自覚症状もなかったという点だ。
医師が語るApple Watchの革命的価値
副島先生は、Apple Watchの医療現場での有用性について高く評価している。「鈴木さんのような段階で見つかるのはすごくラッキー。心電図は長ければ長いほうがよく、長時間モニターできていることが重要」と説明する。
年に数回しか不整脈が出ない人もいる中で、簡単な腕時計で計測できるのはすごく革命的だという。Apple Watchの心電図機能では、洞調律、心房細動、低心拍数または高心拍数、判定不能の4つの結果を判定できる。
他社製品との決定的な違い
Apple Watchの心電図機能は、精度が高く綺麗に波形が取れるという点で他社デバイスより優れている。副島先生は「脈拍と心電図は違う。正確性はAppleは他と比べようがない」と評価している。
Apple Watchは心拍数を常にモニターしており、異常な脈を検知すると心電図を記録するようユーザーに促す。これにより、自覚症状がない、あるいは軽微な症状でも異常を捉えることが可能になる。
包括的な健康管理への新たな可能性
Apple Watchは心臓の機能だけでなく、睡眠時無呼吸、運動量、酸素飽和度などをトラッキングできる。副島先生は「どれぐらいの運動量をしているのか見える化され、マインドフルネス機能も自律神経を整えるために重要」と指摘する。
夜間の装着や睡眠状況の把握も心房細動の早期発見において重要で、継続的なモニタリングが可能なApple Watchの価値は計り知れない。肥満、睡眠時無呼吸、運動不足、高血圧、糖尿病、飲酒、心不全、冠動脈疾患といったリスク因子の管理にも活用できる。
患者がApple Watchで記録したデータを医師に見せることで、医師はより具体的なアドバイスを提供できるようになる。副島先生は「自分で心電図を取れる、というのが1番の評価ポイント」と語る。
健康への意識を変える存在
鈴木さんは現在、Apple Watchの価値を実感している。「サイクリングの記録を取りたいと思って使い始めたが、病気が見つかって良かった。転倒検知機能も理解したし、自分が理解できない身体の変化に気づいてくれる。昔は腕時計は嫌いだったけど、今は欠かせない存在」と語る。
一方で、周りの同世代からはまだ「自分事ではない」と捉えられがちな現状も明かしている。「自分がそういう風になると思っていない人が多い」という課題もある。
副島先生も、Apple Watchをうまく活用することで心房細動の早期発見・予防が可能になると結論付けている。「自分の健康に対して興味が湧くということは良いこと」として、健康管理ツールとしてのApple Watchの可能性に大きな期待を寄せている。
健康とは、病院での診断や治療だけではない。日常の中で、自分の体に起こる小さな変化に気づくこと——Apple Watchは、そんな健康管理の新しい形を提示している。
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