iOS 6のマップ、どうしてこうなった
iOS6のアップデートに伴い提供されたApple謹製のMapアプリだが、その完成度については既に様々なメディアが取り上げているように散々たるもので、お世辞にもGoogleMapに対抗できるものとは言えない。
むしろ、地図アプリとして評価をするのであれば、最悪という評価にすら値しないほどひどい。
アップルが異常に完成度が低いものをリリースするのは今回に始まったことではない。
初めてリリースされたMacOSXは本当にひどい出来だったし(ひどすぎて次のメジャーアップデートは無料だったほど)、最近だとMobileMeのサービスイン時の不具合、あるいはiPhone4リリース時のアンテナ問題などは、ジョブズが自ら会見を開いて説明したこともあった。
だが、今回のマップはそれにしてもひどすぎる。
何せ、世界で一番売れている端末の地図アプリケーションが一斉にまともに使えなくなるわけだ。
このインパクトは計り知れない。
そんなAppleのマップを眺めていて思うのは、なぜこんなことが起きたのかということ。
どうも「アップルの地図というものに対する姿勢のあり方」と「アップルの開発体制の特性」という2点が重なった結果、アルファ版にも満たない完成度のままリリースされるに至ったように思える。
GoogleMap版とApple版それぞれの地図を比較しながら、この考えを紐解いてみよう。
地図アプリとして何が問題か
ひとくちに完成度といっても様々ある。
細かい誤表記や情報間違いなどは論外として、特に問題なのは、誰が得する設計思想なのか分からない点が多く見受けられることだ。
地図を使うときには歩くことも多い。目的地に向かうときには目印も必要だ。
例えば、次の比較を例にとってみる。
左がApple謹製地図、右側がGoogle Map。
これは近所の地図を似たような縮尺で比べたものだが、地図として優れているのは明らかにGoogle Mapなのが分かる。
要因としては、次のようなところだろう。
- 道路の色分けが為されている。Apple謹製地図は無駄に国道番号の表示が多く、何の情報なのか一見してわかりにくい。
- 交差点の名前が記載されている。
- 目印となる建物にきちんと名前が記載されている。
とくに道路の色分けについては、場所によっては本当にひどい。
Apple版の東京駅周辺はもはやカオス状態だ。
あわせて、丸の内周辺の地図についても比較をしてみよう。
一見して分かるのは情報量の圧倒的な差であるが、ここで問題なのは情報量そのものではない。
初めてリリースされるアプリに、7年以上前にリリースされたGoogle Mapほどの情報量を期待はしていないし、あとからアップデートすることはできるからだ。
しかし情報が少ないからこそ、外してはいけない情報は必ず網羅されていなければならない。
例えば一番大きな建物は何か、駅の出口はどこか、何駅がどこにあるのか。たったこれだけでよいのに、見事なほどに情報が抜け落ちている。
その一方で、一方通行なのかどうかという情報についてはきちんと記載されている。
これはどの場所をみても変わらず、むしろ情報豊富なほどである。
加えて建物情報が少ないのに、レストラン情報が異常に多い。商業ビルの中のいちレストランをランドマークにされても目印にはならない。
明らかな誤表記
論外と言っても目に余るものもある。
たとえば伊勢湾をある程度の縮尺でみると、フィリピン海と表示されてしまう。
他にも地域によってはハングル、英語、日本語が入り交じるところもある。
なぜこうなるのか
地図のあり方や使われ方は目的でも異なる。
歩いて移動する時も、道路上を歩く時と、電車で移動する時は地図の見方が変わる。
優秀な地図は、そのどの場合を想定しても対応できるように作られているはずだ。
一枚の地図であっても、それは利用目的というレイヤーがいくつにも重なった多重構造で作られている。
ゆえに、使える地図を目指すのであれば、誰がどういう目的で使うのかを綿密に想定し、情報を取捨選択するべきものだと思う。
しかしアップルの地図は利用する目的別にきちんと情報を選択したとは思えない。
色分けがポリシーが曖昧、通りの名前がある国については幾分マシに見えるが、それでもマシという程度。
一方で異常にレストラン情報が多く、一方通行の道路に関してはなぜか網羅されている。
伊勢湾がフィリピン海だったり(一万歩譲っても太平洋だろう)、東シナ海が瀬戸内海だったりするのは明らかに雑だ。
恐らく、ある程度は領域を指定して自動処理を行っており、領域指定に誤りがあるか、座標系が統一されていないかといったところだろう。
利用者にとって使える地図を目指しているのであれば、これらはあまりにもお粗末である。
これらから考えられるのは、
- 開発効率を優先…統一ポリシーにより開発速度を上げ、自動処理により最低限の地図としての体裁を整える(結果として最低限も整ってないけど)
- 統一ポリシーは、ナビゲーションや3D表示、ベクターベースのデータなど、機能ありきであり、それらをまずWorkさせるために設定されている
結果として、利用者のことを考えるのは後回しになっているように見える。
3D地図もナビゲーションも、最近のWeb地図は基本的な機能として備えている。しかしそれらの機能も、もとは綿密で使える地図を目指すという崇高な目的があり、その課程で利用者がより便利に使えるようにするため開発されたことを見落としてはいけないと思う。
プレスリリースとしてGoogle Mapに劣らない地図であることを見せようと焦るあまりに、結果として誰も得しないMapアプリがリリースされてしまった。地図はあくまでも利用者のためのものであり、Appleの優位性を見せるものではない。3Dやナビゲーション機能は、精緻な地図があってこそ成り立つし、それこそが利用者目線で考えた場合必要なものじゃないだろうか。
とはいえ、もうリリースされてしまったものは仕方がない。
Google Mapのアプリ版を待てばいいじゃないか、というのはその通りだが無粋な話だし、これをどう改善していくかが課題。
が、結局誰のための地図であるか、なんのための地図であるかを考えない限り、何年かかってもGoogle Mapに追いつくのは無理だ。
これまでも技術ドリブンでプロダクトをリリースして失敗する例は、アップルも多かったが、ここまで世の中のインフラになってしまっているものに対しての失敗は初めてだと思う。どう巻き返していくのかに期待したいとこ。
(written by Shinsuke Kato)