日本のiPhoneユーザーが失うもの。Appleが恐れる「EUの二の舞」
パブコメ反映も根本的問題は未解決。EUの「失敗例」が日本でも現実化する恐れ
40年以上日本で事業を展開し、100万以上の雇用を支援してきたApple。同社が日本の「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」(通称:スマホ新法)に対して抱く思いは、一言で表現するなら「欧州の轍を踏まないでほしい」ということに尽きる。
Appleは、以下のコメントを発表している。
「Appleは日本で40年以上にわたって事業を展開しており、国内で100万人以上の雇用を支えていることを誇りに思っています。また、App Storeが、開発者の皆さまにとって魅力的なビジネスの機会を提供し、ユーザーにとって最高のアプリ体験ができる場であり続けられるよう、常に革新を重ねています。しかし、政府が導入しようとしているEU型の規制は、プライバシーやセキュリティの保護を損なうだけでなく、私たちの技術やサービスを競合他社に無償で提供することを強いるものであり、新たなリスクを生じさせかねません。こうしたリスクを適切にご理解いただけるよう、私たちは引き続き公正取引委員会との対話を重ねてまいります」
5月の原案発表からガイドライン策定まで、Appleは一貫してユーザーの安全とイノベーションを守ることの重要性を訴え続けてきた。しかし果たして、その声は十分に届いたのだろうか。
日本の開発者エコシステムへの深いコミット
まず理解しておくべきは、Appleが日本の開発者コミュニティに対して行っている貢献の規模だ。App Storeのエコシステムが2024年に日本国内だけで467億ドル(約7兆円)の開発者売上と商取引を促進したことが最新の調査で明らかになっている。
Appleは規模の大小を問わず日本の開発者が世界中のユーザーに向けて製品を構築、テスト、マーケティング、提供できるよう、必要なツールや環境の継続的な整備に力を注いでいる。現在App Storeの取引システムは195を超える国内の決済手段と44の通貨に対応しており、開発者にはソフトウェア開発キットや200種類以上のフレームワーク、25万点以上のAPIという幅広い独自のツールや技術、サービスを提供している。
興味深いのは、ほとんどの開発者にとって、Appleへの手数料は一切発生していないことだ。Appleが手数料を徴収しているのは有料アプリやアプリ内でデジタル商品・サービスを販売している場合に限られており、App Storeにあるアプリの約85%はAppleに手数料を支払っていない。
また、手数料の対象となる開発者に対しても、より良い条件を提供するための取り組みを重ねており、その一例が手数料率を15%に抑えた「App Store小規模事業者プログラム」だ。
パブコメ反映の「光と影」
5月の原案発表後、僕は一連の記事を通じてAppleの懸念を伝えてきた。特に「ぜんぶスマホ新法のせいだ。日本のiPhoneユーザー、最新機能を失う恐れ」や「サイドローディングや代替アプリストアの隠れたリスク:なぜAppleが警告するのか」で指摘した通り、この法律がもたらすリスクは甚大だった。
そして今回のガイドライン発表。確かにAppleの声は部分的には届いていた。知的財産権については「権利行使と認められる場合には法違反にならない」と明記され、手数料についても「技術価値を反映した手数料」の正当性が認められた。表面的には、Appleの主要な懸念に一定の配慮が示されている。
しかし問題は、これらの「成果」では根本的な懸念が解決されていないことだ。手数料については「妨げる行為に直ちに該当するわけではない」との文言が追加されたが、最終的な判断基準は相変わらず曖昧だ。知的財産についても「正当化事由」への言及は加えられたものの、「無償でかつ制約なく」の文言は残存している。
EUの「悪夢」は依然として現実的な脅威
僕が最も危惧していたのは、欧州デジタル市場法(DMA)で起きた「意図しない結果」が日本でも起こることだった。そして残念ながら、今回のガイドラインでもその根本的なリスクは解消されていない。
EU域内では既に以下の機能が利用できない状況となっている:
- iPhoneミラーリング(画面投影機能)
- SharePlay画面共有機能
- Macでのライブアクティビティ表示(iPhoneミラーリングの延長)
これらの機能は、僕らが日常的に使っている革新的な体験だ。iPhoneミラーリングを使ってMacでiPhoneアプリを操作したり、SharePlayで友人と画面を共有したりする体験が、規制によって奪われているのだ。
今回のガイドラインでセキュリティ配慮は認められたものの、相互運用性要件の根本的な問題は解決されていない。Appleが「日本におけるAppleの新しくエキサイティングな製品や機能のリリース日を、法律への準拠を確保するために延期する必要が生じるおそれがあります」と警告した状況は、実質的に変わっていないのだ。
「部分的成果」では防げないユーザーの不利益
控えめに言って、これは日本国民として絶対に避けたいシナリオだ。僕らが享受している最先端の技術体験が、「競争促進」という名目で奪われる可能性が現実味を帯びている。
想像してみてほしい。今まで簡単だった操作が複雑になったら?新機能の提供が他国より大幅に遅れたら?
僕は嫌だ。そんな状況は絶対に嫌だ。
20億ドルを超える不正取引からユーザーを守る現在のシステム
Appleが強調するのは、開発者にとって優れたApp Storeは、ユーザーにとっても安心で信頼できる場でなければならないという理念だ。すべてのアプリは提出時に動作やプライバシー・セキュリティ面を含めた審査を受け、明確で一貫性のあるガイドラインに基づいて評価される。
その結果、2024年には20億ドルを超える潜在的な不正取引からユーザーを守った。また、iOSはこれまで、一般消費者を狙った大規模なマルウェア攻撃を許したことがないという実績を持つ。
現在のApp Storeでは、2024年だけで安全上のリスクが懸念される116,105件のアプリを世界中で却下し、38,315件の不正アプリを削除している。
代替アプリストアの適格基準設定の必要性は今回認められたものの、現在のApp Storeレベルの厳格な審査が保証されるわけではない。マルウェアの増加、個人情報漏洩のリスク拡大、青少年保護機能の弱体化といった懸念は依然として残っている。
特に深刻なのは、高齢者や技術に詳しくないユーザーへの影響だ。購入履歴の分散化、サブスクリプション管理の複雑化、セキュリティ設定の不統一、サポート体制の不明確化といった問題により、現在の「安全で使いやすい」環境が失われてしまう可能性がある。
曖昧な規定が生む新たな不確実性
Appleが獲得した「部分的な成果」は確かに評価できる。しかし、今回のガイドラインの多くの規定が「個別具体的な事情を踏まえて判断」「合理的な範囲」「必要かつ十分な対応」といった曖昧な表現で記載されていることも大きな問題だ。
これらの表現は現時点ではAppleに有利に解釈される可能性があるが、将来的な法執行の場面では公正取引委員会の裁量によって解釈が変わるリスクを含んでいる。結果として、法的不確実性がさらに拡大し、Appleが最も恐れる「規制の予測困難性」という問題が温存されている。
「形式的配慮」では解決されない構造的問題
今回のガイドラインは、パブリックコメントを「聞いた」という形式は整えている。知的財産権保護や技術価値に基づく手数料設定への配慮も示されている。しかし、Appleが指摘した本質的な問題—ユーザーの不利益、イノベーションの阻害、セキュリティリスクの増大—については根本的な解決策を提示していない。
この法律の最大の問題は、最終的にユーザーが最大の被害を被る構造が変わっていないことだ。「競争促進」という耳障りの良い言葉に隠れて、実際にはユーザーの安全性と利便性が犠牲になっている。
EUの例を見れば明らかだ。期待された「新しい競争」や「革新的なアプリ」は生まれず、代わりにユーザーの安全性とプライバシーが損なわれ、最新機能へのアクセスが制限されている。これが「競争促進」の現実なのだ。
日本国民として求める真の解決策
日本のスマホ新法は、12月18日に全面施行される予定だ。確かにAppleの一部の要求は反映されたが、それでも現在の枠組みでは、日本のiPhoneユーザーがEUと同様のリスクに直面する可能性は十分にある。
僕らが求めるのは、安全で使いやすく、最新技術を享受できる環境であって、「選択肢」という名の混乱ではないはずだ。部分的な配慮では不十分なのだ。
日本国民として、EUの失敗例を教訓に、ユーザーの真の利益を最優先に考えた制度運用を強く求めたい。表面的な「成果」に満足することなく、根本的な問題解決こそが必要だ。Appleの40年にわたる日本への貢献と、僕らユーザーの安全で革新的な体験を守るために。
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全くその通りだと感じます。
スマホ新法、なんとかして通らないようにはできないのかな……